恋から逃げるのには理由(わけ)があって

何も問題ないはずなのに。

そう思った瞬間から、部屋の空気まで重くなった気がした。

私は洗濯物の上で両手に顔を埋めたまま、しばらく動けなかった。
テレビは消した。
スマホも伏せた。
それなのに、頭の中ではまだ、朝比奈絵里奈の声が響いている。

良きパートナー。

たいえり。

運命の恋。

誰だ、そんな単語を私の夜に持ち込んだ人間は。
出てきなさい。反省会をします。

けれど、冗談を浮かべても胸の奥は軽くならなかった。

太陽からの連絡は来ない。
来ないことが正しい。
私はそう望んだ。

なのに、正しいことがこんなに苦しいなんて、誰も教えてくれなかった。

「……何か食べよう」

声に出してみたものの、冷蔵庫を開けた瞬間、現実が私を見下ろしてきた。

牛乳、ほぼ空。
卵、なし。
納豆、ひとつ。
プリン、ひとつ。

私はため息をしてから、財布とエコバッグをつかんだ。
スーパーへ行こう。
食材を買う。
できれば何も考えず、卵と牛乳と、できれば値引きされた総菜を買う。
人は生活を続けるためにスーパーへ行く。恋愛に負けそうな時も、タイムセールは待ってくれない。

そう思って部屋を出た。