「あんな密着されて、もう少しでキスでもされるところだったじゃないか」
私のあごに指をかけながら囁く低い声は、どこかたしなめるようだった。
「悪いのは俺だ。……でも、仮にも俺と言う婚約者がいながら、簡単に身を許すだなんて、少し油断が過ぎるんじゃないのか?」
「そんな……だって、んっ」
キスされて、続きが言えなかった。
不意の行為に胸がきゅうとなって苦しくなる。
息を継ごうとしても唇が追いかけてきてふさがれる。
こんなキスをされたのは初めて戸惑う。
私の動揺を察したのか、一真さんは名残惜しそうに唇を離すと、ほっと息をついた。
「ごめん。俺もこんな気持ちになったのは初めてで、驚いている」
彼は自嘲するように微笑んだ。
いつも自信にあふれた一真さんのこんな顔をするなんて。
後悔の念に襲われる。私も一真さん以外の男性とふたりきりで会話するなんて軽はずみだった。
「ごめんなさい、一真さん、私……」
「そんな可愛い顔して言われたら、今度は今みたいなキスじゃすまないぞ」
顔を火照らせていると、やさしく手を引いて、立ち上がらせてくれた。
「そろそろ帰ろうか。明日も患者が待っている」
「はい」
にっこりと笑い返すと、私はその手をそっと握り返した。



