「今は安定していますが、息子さんの心機能はまだ不安定です。いつ再び急変してもおかしくない。そのたびに外科的処置を行うのは、この小さな体には耐えられません。だからこそ、薬剤による介入が必要なんです」
「でも……本当に安全なんですか? 前例の少ない薬を、五歳の子に……」
美玲子さんは震えた声で不安を口にする。
その時だった。
処置室内の機器が、鋭いアラーム音を立てた。
男の子の容体に異変が起きたのだ。
看護師や医師が一斉に動き出す。
その異変に気付いた美玲子さんたちが、部屋に駆け込んだ。
緊迫とした様子に色を失い、彼女は一真さんにすがりついた。
「先生、お願い……! 私たちを助けられるのは、あなたしかいないの……!」
院長の制止も耳に入らない様子だった。
居丈高だった彼女の取り乱しぶりに、私は言葉を失う。
そんな私の視線が気に障ったのか、彼女は私に気づくと、怒りの矛先を向けてきた。
「私の苦しみを知って、内心で笑っていたんでしょう? あんたみたいな女が、一真先生と婚約だなんて、身の程をわきまえなさい!」
絶叫に近い声が、空気を裂いた。
私の中でふつふつと湧き上がるものがあった。



