ルームミラーでシャツの襟を整え、前髪を指先で直す。
最後にルージュをひと塗り。
主張しすぎず、仕事のできる女性に見える色だ。
よし、行くぞ。
営業車から降りると、私はまるでそびえたつ山と対峙するように、大きな建物を見上げた。
私の名前は美沢清那(みさわ せいな)。
外資系製薬会社グローバルファーマリンク株式会社のMRになって四年目となる二十六歳だ。
薄化粧にきっちり一本に束ねた黒髪。
仕事ができる女に見える黒いパンツスーツ。
これが私のいつもの戦闘スタイル。
この媚びない格好が似合っているとよく褒められるのはありがたいけれども、この厳しい業界に容姿の良し悪しは一切関係ない。
都内でも指折りと称されるここ医療法人日慈会日田総合医療病院にも、名の知れた医師がひしめいている。
とりわけ、これから会う先生は業界の誰もが一目置く存在。気合いが必要だ。
「おはようございます。グローバルファーマリンク株式会社の美沢です。お世話になっております!」
「おはよう、今日も元気だね」
心臓科の医局を訪ねると、落ち着いた声とともに鷹宮先生が顔を上げた。
受付の方の話によると、先生は数時間に及ぶ大手術を終えたばかり。
なのに、そんな大仕事を終えた後とは思えないほどの凛とした爽やかさがあった。
この方の名前は鷹宮一真(たかみや かずま)。
三十二歳という若さながら天才と称される心臓外科の名医。
芸能人でも通用しそうな整った顔から発せられる鋭い眼光で、どんな難病にも気づき難しい処置もこなしてしまう――まるで医療ドラマから抜け出てきたような人だ。
ナチュラルなセンターパートのヘアスタイルが似合う甘い顔立ちに、穏やかな微笑みを浮かべている彼に、私は姿勢を正した。



