【番外編集】鷹宮先輩、ズルいです 〜泣き顔を拾われたら、極甘上司に溺愛されました〜

明日も仕事ということもあり、楽しい宴もお開きとなった。 
エントランスで三人を見送ると、璋さんが指を絡める。
そのまま、少し早歩きで玄関ドアまで帰ってきた。
 
先ほどまでの賑やかな空気は消え去り、夜の静寂さがさざ波のように漂っている。  

「皆さん帰っちゃうと、なんだか寂しい気もしますね」

こんな風に気の置けない人たちと、一緒に過ごすクリスマスも悪くない。
そんな風に思えた1日だった。

「……まだクリスマスやんな?」

「そうですね、11時前ですもんね」 
 
そう答えて靴をぬごうとすると、ふわりと体が浮く。
璋さんはあたしを抱えたまま、靴を脱がすとスタスタと廊下を進む。
   
「……え??……あきら……さん?!」

「ゆうたやろ?「もう手加減せぇへんし、溺愛される覚悟しぃやっ」て」

確かに、言われました……。

「ずー――――――っと我慢してたんやで?」 

「えらいやろ?」
 
そう言って首筋に鼻先を寄せる彼の呼吸は、いつもの冷静な上司のものとは思えないほど、熱く、荒かった。
 
「……今日は、葵が泣いても離さへんから」
 
「……嫌やったら、今のうちに言い。止まるんは、たぶん今だけや」
 
璋さんがどこに向かって歩いてるかなんて、分かりきっているのに。

「こっからが、恋人たちの本番やで」
 
​璋さんがあたしを抱きかかえたまま、寝室のドアを背中で押し開ける。
月明かりだけが差し込む静かな部屋。
 
​「……あきら、さん……」
 
「名前、もっと呼んで。……今日はもう、誰にも邪魔させへんから」
 
​降ろされたベッドの上。
覆いかぶさってきた彼の瞳には、あたしを飲み込もうとするような、甘くて深い夜の色が宿っていた。

「葵、覚悟しぃや」
 
耳元で掠れた声が響き、重なる唇から彼の独占欲が流れ込んでくる。

(……この人、ほんとズルい) 
  
あたしは、甘くとろける刺激に、体も心も委ねていった。     

***

駅までの帰り道。
三者三様の想いが交錯していたなんて、当然あたしは知る由もなく。

「……頭、痛い……眠たいー……」

「自業自得だろ、雪乃」

「クリスマスに嫌味とか……やめてよねー」 

千鳥足の雪乃先輩が、よろめいた瞬間。

「っ!……」

「……え?」

「あっ!……」

同時に伸びた二つの腕が、両横から抱き止めた。
雪乃先輩は驚いたまま、固まっている。

先にほどいたのは、真鍋さんだった。
真鍋さんの視線が、一瞬だけ南実くんの手元に落ちた。
その目が、わずかに冷えた気がした。
 
「気を付けろ、ばか」

「…………ごめん、松原もありがと」

「いえ……ケガがなくてよかったです」

(本当に昔から面倒くさい女なのに……なんで、他のやつに触らせてんだよ)
 
(和巳と二人で過ごしたかったのに……あたしの意気地無し)
 
(八千草さんは……もしかして真鍋さんのこと……)       

トライアングラーたちの恋は、まだ誰のものにもなっていない。
 
この夜が、止まっていた恋を動かすことになるなんて――。