色褪せて、着色して。Ⅶ~カンパニュラ編~

 みなさん、こんにちは。
 私の名前はセシル・マルティネス・カッチャー。
 生粋のスカジオン人ですが、訳あって隣国のティルレット王国で暮らしている。
 表向きは、スカジオン王国の王族で。
 人質としてティルレット王国にやってきて。
 国王の側近である太陽様と政略結婚したがため、
 愛のない結婚生活を送っていて。
 更に、ここに付け加えるのが。
 私は国王のあいじ…寵姫として存在している。

 という、とんでもない情報量を持つお姫様として生きているのが私。
 この国では、身分の高い者は本名を明かしてはならない決まりがあるそうで。
 私は「マヒル」という呼び名で生活している。

 すべては嘘で塗り固められた情報なわけで。
 実際のところ、私はティルレット王国の王族ではない。
 人質でもない。
 そして、国王の寵姫ですらないのだ。

「俺たちが座ってもいいんでしょうか?」

 家に帰ってきたばかりだというのに。
 バニラは簡単な掃除を済ませた後。
 リビングルームのテーブルにフルーツの盛り合わせを置いた。
「勿論ですわ。これから、顔を合わせていくわけですから。座ってゆっくりと話し合う時間は必要です。今、お茶を持ってきますわ」
 こういうのって、本当は私が仕切らなきゃいけないんだよな…
 と立ちすくしながら、ぼんやりとバニラを眺める。
 バニラはてきぱきと動いて、
「さあ、マヒル様もご着席くださいな」
 と言われたので、言われるがまま座った。
 太陽様は当然とばかりに私の隣に座ったのでビックリした。

 久しぶりに会う太陽様は、仕事が忙しかったのか。
 目の下に濃い隈を作っている。
 家の中で騎士の制服だとくつろげないよなあ…と考えてしまう。

「あの。太陽様。俺、あなた様と会うのは初めてではないんです」
「え!? えと、どこかでご一緒でしたっけ?」
 目の前に座るトペニに太陽様は目をきょろきょろと動かした。
 バニラの淹れてくれた紅茶を一口、ごくりと飲むと。
 トペニはぱっと立ち上がった。
「俺、例の娼婦館で捕まった罪人です」
 トペニの告白に、太陽様よりも大きい声でスズメが「ええ!?」と叫んだ。

「俺は罪人でこの世からいなくなるはずでしたが、マヒル様のご慈悲によりこうして生きて、護衛としての仕事を頂いて…今日まで過ごしてきています」
「……」
 ちらりと太陽様が私を見る。
 私は軽く頷くだけだ。
「太陽様が俺のことを気にくわないのならば、今すぐ俺は此処から去ります」
 ぺこっと頭を下げたトペニに。
 太陽様は目をまんまるにしている。
 じいーと大きな目でトペニを見ている。

「あ、あの…」
 そういえば、一つも太陽様に説明してなかったことに今更ながら気づいて。
 でも、どう説明していいのかわからなくて・・・
「頭を上げてください、トッピーさん」