***
翌朝、大欠伸をしながら教室に入ると、それを目ざとく見つけた貴生に「でっけぇ欠伸!」とゲラゲラ笑われた。
……うっさい! 誰のせいだと思ってんのよ!
自分の席に着くと、貴生も寄ってきて「なあ! ……あのキャンディ、全部食ったのかよ?」とおずおず聞いてくる。
「食べれるわけないでしょ。何本あると思ってんのよ!」
私が言い返すと、貴生はほんの少し残念そうな顔を見せた後、「なに少食ぶってんだよ。ホントは余裕なくせに」と小馬鹿にしてくる。
ああ、ホントムカつく!
思わずムッとし、カバンから貴生にもらった棒付きキャンディを一本だけ無言で差し出した。
「ちょっとこれでも食べて、黙ってくれる?」
一瞬怯んだ貴生だったが、差し出された物を見て、大きな声を上げた。
「お前、これ人がやったヤツ……!」
「私がもらったんだから、誰にあげてもいいでしょ。…………個包装は捨てちゃダメだからね」
「……え?」
そう言って手に取った棒付きキャンディの個包装を見ると、そこにはマジックで小さなハートマークが描かれていた。
「美涼……これ……」
「……それが、返事、だから」
私がそう告げた瞬間、貴生は固まった。
数秒の沈黙のあと、かすれた声で「……マジで? 本当に……?」とつぶやき、次の瞬間——
「……ぃやったあああああああ!!!」
教室中に響き渡る大声。
周りのクラスメイトたちからも「何?」「どうした? 貴生」「美涼、何かあったの?」と質問が飛ぶ。
私は恥ずかしさと嬉しさで頬を染めながら、「ふふっ……別に、何でもないよ」と笑って誤魔化した。
その視線の先には、棒付きキャンディを高々と掲げ、笑顔でガッツポーズをする貴生の姿。
まるで世界を手に入れたみたいに。
もらった棒付きキャンディ。
そこに書かれていた文字を文章にすると——
『すきです おれとつきあってください』
照れ屋な貴生からの、精一杯の告白。
そしてこの日から、そのキャンディは、私たちにとっての「特別な味」になった。
***
「きゃー! パパってばロマンチスト!」
「確かにロマンチストだけど、私なら男だったら直で告ってこい! って思うけどな」
二人の娘が、ワイワイと騒ぎながら話している。
「お姉ちゃん、それは時代遅れだよ。男だからとか、今どき関係ないって」
そんな会話を、私は微笑ましく眺めていた。
「ねえ、ママはその時、どう思ったの?」
上の娘に聞かれて、少し考えてから答える。
「そうねぇ。嬉しさ半分、直接言われたかった気持ち半分ってとこかしらね」
「だよねー!」とまた二人が騒ぎ出したところに、玄関から「ただいまー」と声が聞こえてきた。
「パパ、おかえり!」
「おかえりなさーい」
「どうした? 三人そろって、なんだか楽しそうだな」
夫である貴生が、不思議そうな顔でリビングに入ってくる。
「今、パパがママに告白した時の話、聞いてたの」
下の娘が楽しそうにそう言うと、うがいをしていた貴生は「ぶっ、ごふっ……!」と盛大に水を吹き出した。
「ちょっ……! なんで、そんな話に……!」
「だって、この家いっつも棒付きキャンディあるから“なんで?”って聞いたら、ママが教えてくれたの」
しれっと答える上の娘とは対照的に、顔を真っ赤にしながら詰め寄ってくる貴生。
……仕方ない。娘たちも年頃になって、色々気になるんだから。
娘二人に当時のことを突っ込まれながらアタフタしている貴生の姿を見て、私は改めて思う。
(幸せだな……)
そしてテーブルの上には、いつもの棒付きキャンディ。
私たちにとっての「思い出の味」は、今も変わらずそこにあった。
翌朝、大欠伸をしながら教室に入ると、それを目ざとく見つけた貴生に「でっけぇ欠伸!」とゲラゲラ笑われた。
……うっさい! 誰のせいだと思ってんのよ!
自分の席に着くと、貴生も寄ってきて「なあ! ……あのキャンディ、全部食ったのかよ?」とおずおず聞いてくる。
「食べれるわけないでしょ。何本あると思ってんのよ!」
私が言い返すと、貴生はほんの少し残念そうな顔を見せた後、「なに少食ぶってんだよ。ホントは余裕なくせに」と小馬鹿にしてくる。
ああ、ホントムカつく!
思わずムッとし、カバンから貴生にもらった棒付きキャンディを一本だけ無言で差し出した。
「ちょっとこれでも食べて、黙ってくれる?」
一瞬怯んだ貴生だったが、差し出された物を見て、大きな声を上げた。
「お前、これ人がやったヤツ……!」
「私がもらったんだから、誰にあげてもいいでしょ。…………個包装は捨てちゃダメだからね」
「……え?」
そう言って手に取った棒付きキャンディの個包装を見ると、そこにはマジックで小さなハートマークが描かれていた。
「美涼……これ……」
「……それが、返事、だから」
私がそう告げた瞬間、貴生は固まった。
数秒の沈黙のあと、かすれた声で「……マジで? 本当に……?」とつぶやき、次の瞬間——
「……ぃやったあああああああ!!!」
教室中に響き渡る大声。
周りのクラスメイトたちからも「何?」「どうした? 貴生」「美涼、何かあったの?」と質問が飛ぶ。
私は恥ずかしさと嬉しさで頬を染めながら、「ふふっ……別に、何でもないよ」と笑って誤魔化した。
その視線の先には、棒付きキャンディを高々と掲げ、笑顔でガッツポーズをする貴生の姿。
まるで世界を手に入れたみたいに。
もらった棒付きキャンディ。
そこに書かれていた文字を文章にすると——
『すきです おれとつきあってください』
照れ屋な貴生からの、精一杯の告白。
そしてこの日から、そのキャンディは、私たちにとっての「特別な味」になった。
***
「きゃー! パパってばロマンチスト!」
「確かにロマンチストだけど、私なら男だったら直で告ってこい! って思うけどな」
二人の娘が、ワイワイと騒ぎながら話している。
「お姉ちゃん、それは時代遅れだよ。男だからとか、今どき関係ないって」
そんな会話を、私は微笑ましく眺めていた。
「ねえ、ママはその時、どう思ったの?」
上の娘に聞かれて、少し考えてから答える。
「そうねぇ。嬉しさ半分、直接言われたかった気持ち半分ってとこかしらね」
「だよねー!」とまた二人が騒ぎ出したところに、玄関から「ただいまー」と声が聞こえてきた。
「パパ、おかえり!」
「おかえりなさーい」
「どうした? 三人そろって、なんだか楽しそうだな」
夫である貴生が、不思議そうな顔でリビングに入ってくる。
「今、パパがママに告白した時の話、聞いてたの」
下の娘が楽しそうにそう言うと、うがいをしていた貴生は「ぶっ、ごふっ……!」と盛大に水を吹き出した。
「ちょっ……! なんで、そんな話に……!」
「だって、この家いっつも棒付きキャンディあるから“なんで?”って聞いたら、ママが教えてくれたの」
しれっと答える上の娘とは対照的に、顔を真っ赤にしながら詰め寄ってくる貴生。
……仕方ない。娘たちも年頃になって、色々気になるんだから。
娘二人に当時のことを突っ込まれながらアタフタしている貴生の姿を見て、私は改めて思う。
(幸せだな……)
そしてテーブルの上には、いつもの棒付きキャンディ。
私たちにとっての「思い出の味」は、今も変わらずそこにあった。

