休み時間まで、私は貴生がくれたキャンディをカバンに突っ込んだまま、ホームルームを受けていた。
もらったのは、昔からあるブランドの棒付きキャンディ。ツインテールの女の子が舌をペロッと出しているキャラクターで、小さい頃から大好きだった。子どものころの記憶がふっと蘇って、胸の奥が少しくすぐったくなる。
私が前に「小さい頃からこのキャンディが大好きで」と話したことを、貴生は覚えていてくれたのだろうか。
先生が黒板に向かって話している間、私は一つだけカバンからこっそり取り出してみた。
……よく見ると、個包装の表面にマジックで文字が書かれている。
『お』
たった一文字だけ。裏を見ても何も書かれていない。
「なにこれ?」と心の中でつぶやいたとき、チャイムが鳴って先生は教室を出ていった。ようやく待ちに待った休み時間だ。
「プレゼントもらえて良かったじゃん!」
「棒付きキャンディってとこが貴生らしいけどね」
由香と真由美が、私の席にやってくる。
「ねえ、なんか袋に文字が書いてあるんだよね……」
私がそう言うと、二人は興奮気味に身を乗り出した。
「え?」
「文字って……まさか『好きだ』とか!?」
「違う、違う! なんか一文字だけなんだよ」
私は慌てて否定し、さっき手にしたキャンディを見せる。
「『お』? 他は?」
と真由美が首を傾げる。
言われてもう一つ取り出すと、そこには何も書かれていなかった。
三人で顔を見合わせながら、次のキャンディを手に取るがまたもや何もなし。
他の文字はないのかな?と思いながら、次に手に取ったキャンディには『で』の文字。
「これってあれじゃない? 『誕生日おめでとう』」
由香が閃いたように言い、私たちは「あぁ〜」と同時に声を上げた。
「『おめでとう』くらい、直接言ったらいいのにね」
「恥ずかしかったんじゃない?」
二人がからかうように笑うのを聞きながら、私も一緒に笑ってみせる。
けれど心の中では――
なーんだ……。
もしかしたら、もっと特別な言葉が隠されているのかもしれない。 そんな淡い期待は、すぐに霧のように消えてしまった。
ほんの少しの落胆を抱えながらも、それでも誕生日に好きな人からプレゼントをもらえた喜びを噛み締めていた。
***
その日の夜。
私は帰宅するなり、カバンに詰め込んだ棒付きキャンディを机の上に広げた。
由香と真由美と一緒に見つけたのは、まだ二文字だけ。
最初に見つけた『お』、そして四本目の『で』。
二本目も三本目も空っぽで、なんだか拍子抜けしたのを思い出す。
そして今。新しく取り出したキャンディには――『と』。
(やっぱり……『おめでとう』、だよね)
胸が弾んで、次々とキャンディを手に取っていく。
すると、今度は『だ』の文字。
(だ? 誕生日おめでとう、なら『た』じゃないの? 間違えた?)
気になって、とうとう全部を机の上に広げてしまった。
散らばったキャンディの袋には、見慣れない文字たちが並んでいる。
『お』『で』『と』『だ』『つ』『い』『さ』『す』『あ』『く』『き』『て』『れ』『き』『っ』『す』……
「……なにこれ」
思わず頭を抱えた。
意味が、さっぱり分からない。
『だ』は『で』の書き間違い?
でも、『と』と『だ』で『とだ』ってなんだ?
机の上に散らばる小さな文字たちを前に、私は夜遅くまで「ああでもない、こうでもない」と唸り続けた。
眠い目をこすりながらも、頭の中はキャンディの文字でいっぱいだった。
もらったのは、昔からあるブランドの棒付きキャンディ。ツインテールの女の子が舌をペロッと出しているキャラクターで、小さい頃から大好きだった。子どものころの記憶がふっと蘇って、胸の奥が少しくすぐったくなる。
私が前に「小さい頃からこのキャンディが大好きで」と話したことを、貴生は覚えていてくれたのだろうか。
先生が黒板に向かって話している間、私は一つだけカバンからこっそり取り出してみた。
……よく見ると、個包装の表面にマジックで文字が書かれている。
『お』
たった一文字だけ。裏を見ても何も書かれていない。
「なにこれ?」と心の中でつぶやいたとき、チャイムが鳴って先生は教室を出ていった。ようやく待ちに待った休み時間だ。
「プレゼントもらえて良かったじゃん!」
「棒付きキャンディってとこが貴生らしいけどね」
由香と真由美が、私の席にやってくる。
「ねえ、なんか袋に文字が書いてあるんだよね……」
私がそう言うと、二人は興奮気味に身を乗り出した。
「え?」
「文字って……まさか『好きだ』とか!?」
「違う、違う! なんか一文字だけなんだよ」
私は慌てて否定し、さっき手にしたキャンディを見せる。
「『お』? 他は?」
と真由美が首を傾げる。
言われてもう一つ取り出すと、そこには何も書かれていなかった。
三人で顔を見合わせながら、次のキャンディを手に取るがまたもや何もなし。
他の文字はないのかな?と思いながら、次に手に取ったキャンディには『で』の文字。
「これってあれじゃない? 『誕生日おめでとう』」
由香が閃いたように言い、私たちは「あぁ〜」と同時に声を上げた。
「『おめでとう』くらい、直接言ったらいいのにね」
「恥ずかしかったんじゃない?」
二人がからかうように笑うのを聞きながら、私も一緒に笑ってみせる。
けれど心の中では――
なーんだ……。
もしかしたら、もっと特別な言葉が隠されているのかもしれない。 そんな淡い期待は、すぐに霧のように消えてしまった。
ほんの少しの落胆を抱えながらも、それでも誕生日に好きな人からプレゼントをもらえた喜びを噛み締めていた。
***
その日の夜。
私は帰宅するなり、カバンに詰め込んだ棒付きキャンディを机の上に広げた。
由香と真由美と一緒に見つけたのは、まだ二文字だけ。
最初に見つけた『お』、そして四本目の『で』。
二本目も三本目も空っぽで、なんだか拍子抜けしたのを思い出す。
そして今。新しく取り出したキャンディには――『と』。
(やっぱり……『おめでとう』、だよね)
胸が弾んで、次々とキャンディを手に取っていく。
すると、今度は『だ』の文字。
(だ? 誕生日おめでとう、なら『た』じゃないの? 間違えた?)
気になって、とうとう全部を机の上に広げてしまった。
散らばったキャンディの袋には、見慣れない文字たちが並んでいる。
『お』『で』『と』『だ』『つ』『い』『さ』『す』『あ』『く』『き』『て』『れ』『き』『っ』『す』……
「……なにこれ」
思わず頭を抱えた。
意味が、さっぱり分からない。
『だ』は『で』の書き間違い?
でも、『と』と『だ』で『とだ』ってなんだ?
机の上に散らばる小さな文字たちを前に、私は夜遅くまで「ああでもない、こうでもない」と唸り続けた。
眠い目をこすりながらも、頭の中はキャンディの文字でいっぱいだった。

