それから、三人の年若いメイドに案内されてたどり着いた部屋は、落ち着いた色調で整えられながら、若い女性が喜びそうな華やかさも備えた、とても素敵な空間だった。
部屋のあちこちに置かれた小さな調度品も、どれもハイセンスでかわいらしい。
エレオノーラが生家から持ってきた私物は、トランクふたつにすべて入ってしまう程度のものだ。
それを見たメイドたちが困惑した顔をしているが、当然か。
公爵令嬢の輿入れともなれば、普通ならば大型魔導四輪数台分の荷物があってもおかしくないのだ。なのに、エレオノーラが持ち込んだのは、かなり大きめのものとはいえ、メイドの力で運べるキャスターつきのトランクがふたつだけ。
それらを室内に運び入れたメイドたちが、問いかけてくる。
「エレオノーラさま。お荷物は、こちらのふたつだけでしょうか?」
「ええ、そうよ。ありがとう。白いほうのトランクは、そのまま置いておいてちょうだい。青いほうは、開いて中のものをクローゼットにしまってくれるかしら?」
白いトランクには貴重品を、青いトランクには日用品を詰めてきたのだ。
青いトランクの鍵を渡すと、メイドたちがテキパキとした動きで、手際よくそれを開いたのだが――。
「……あの、エレオノーラさま? 大変失礼ですが、その……もしや、トランクをお間違いになられたのでは……」
ひどく歯切れ悪い口調で問われ、首を傾げて開かれたトランクの中身を確かめる。
エレオノーラは、戸惑った。
「別に、間違ってはいないけれど……。あら? ひょっとして、この部屋には魔導武器を持ち込んではいけなかったのかしら?」
生家では、自室で自分の魔導武器を管理するのが当たり前だったが、家ごとに違うやり方があって当然だ。
しかし、万が一の事態に備えて、やはりいくつかは手元に置いておきたい。
少し迷ったエレオノーラは、恐る恐るメイドたちを見る。
「あの……クリストファーさまにお願いしたら、魔導武器を自分の部屋に置いておくことを、許可していただけないかしら」
その問いかけに、メイドたちがぽかんとした顔を見合わせてから、揃って首を傾げる。
素晴らしい息の合いように、思わず感心してしまう。
「あなたたち、仲がいいのねえ」
「……えぇと、ハイ。あの、エレオノーラさま。改めて確認させていただきたいのですが、こちらの魔導武器の数々は、エレオノーラさまのご愛用の品なのでしょうか?」
艶やかな黒髪に黒い瞳の、一番年長らしい落ち着いた印象のメイドの問いかけに、エレオノーラはあっさりと頷いた。
「ええ。少し旧式のものもあるけれど、どれも頑丈で使いやすいの」
そう言うと、開かれたトランクの中をまじまじとのぞきこんでいた、赤い髪に琥珀色の瞳のメイドが、ぼそぼそと呟く。
「……第二世代の魔導剣に、第五世代の対大型魔獣専用魔導武器、通称《ディルムッド》。第六世代の広範囲攻撃型魔導武器、通称《ヌァザ》。第四世代の超遠距離攻撃型魔導武器、通称《ルフタ》。え……何これ、まさか全部本物?」
あら、とエレオノーラは目を瞠る。
「あなた、随分詳しいのね」
待機形態の魔導武器は、どれも黒一色の薄い板状の直方体だ。そのサイズと、側面に刻まれている金色のシリアルナンバーだけで種類を特定できるとは、このかわいらしい顔をしたメイドは、かなりの魔導武器マニアと見た。
「ひょわあ!? あ、いえ、あの、失礼しましたぁ! あたし、魔導武器が大好きで、つい……!」
わたわたと頭を下げて謝罪する彼女をじろりと見た最後のひとり、胡桃色の髪にはしばみ色の瞳をしたメイドが、少し困惑した様子で口を開く。
「お騒がせしてしまい、申し訳ありません。エレオノーラさま。ひょっとしてエレオノーラさまは、ご実家で魔獣討伐任務に参加されていたのでしょうか?」
「ええ、もちろん。それがどうかしたかしら?」
なぜそんなことを尋ねるのだろう、と不思議に思った彼女に、黒髪のメイドがにこやかに言う。
「なんでもございません。そういうことでしたら、こちらの魔導武器を収納できるロッカーを、すぐに設置させていただきますね。準備が行き届いておらず、申し訳ございません」
「いいえ、本当に急なお話でしたもの。こちらこそ、慌ただしくてごめんなさいね。――あの、あなた方のお名前を聞いてもいいかしら?」
見たところ、この三人のメイドたちはエレオノーラとさほど年が変わらない。
おそらく今後、エレオノーラの専属メイドとして働いてくれる者たちだ。その顔と名前は、できるだけ早めに一致させておきたかった。
そんなエレオノーラの気持ちが伝わったのか、黒髪のメイドがフローラ、赤い髪のメイドがキャロル、胡桃色の髪のメイドがベリンダと、それぞれ名乗る。
どうやら三人の中で、黒髪のフローラがリーダー格らしい。
通信魔導具で魔導武器の収納ロッカーを手配すると、改めてにこりと笑いかけてくる。
「それでは、こちらの魔導武器以外の戦闘服やドレスなどを、先に片付けさせていただきますね。エレオノーラさまは、お好きなお茶の銘柄などはございますか?」
「いえ、特にこだわりはないわ。ありがとう」
お茶会の場で、周囲の話題にきちんとついていけるように、この国で流通している茶葉については一通り識別できるよう、訓練は受けている。
そのため、それぞれの茶の違いは一応把握してはいるけれど、それだけだ。
周囲の女性たちは、みな好みの茶葉があるようだったが、エレオノーラにとってお茶は単なる社交の道具であって、それ以上でもそれ以下でもない。
(そういえば、以前そう言ったとき、なぜかスタンリーには悲しい顔をされてしまったのよね……。どうしてかしら)
ふと弟の顔を思い出していると、頷いたフローラが再び問うてくる。
「了解いたしました。――エレオノーラさま。あちらの魔導武器ですが、第六世代の《ヌァザ》は、たしか二年前に一般流通がはじまったものだと記憶しています。それがあれほど使い込まれた状態というのは……その、どなたかからの贈り物なのでしょうか?」
「いいえ。流通当初に導入してから、わたくしがずっと愛用しているものよ」
それがどうかしたのだろうか、と首を傾げたエレオノーラに、フローラが一瞬息を詰めたあと、深々と頭を下げた。
「……申し訳ありません、エレオノーラさま。どうやら、オルブライト公爵家から通達されたエレオノーラさまのご経歴について、こちらで伝達ミスがあったようです」
部屋のあちこちに置かれた小さな調度品も、どれもハイセンスでかわいらしい。
エレオノーラが生家から持ってきた私物は、トランクふたつにすべて入ってしまう程度のものだ。
それを見たメイドたちが困惑した顔をしているが、当然か。
公爵令嬢の輿入れともなれば、普通ならば大型魔導四輪数台分の荷物があってもおかしくないのだ。なのに、エレオノーラが持ち込んだのは、かなり大きめのものとはいえ、メイドの力で運べるキャスターつきのトランクがふたつだけ。
それらを室内に運び入れたメイドたちが、問いかけてくる。
「エレオノーラさま。お荷物は、こちらのふたつだけでしょうか?」
「ええ、そうよ。ありがとう。白いほうのトランクは、そのまま置いておいてちょうだい。青いほうは、開いて中のものをクローゼットにしまってくれるかしら?」
白いトランクには貴重品を、青いトランクには日用品を詰めてきたのだ。
青いトランクの鍵を渡すと、メイドたちがテキパキとした動きで、手際よくそれを開いたのだが――。
「……あの、エレオノーラさま? 大変失礼ですが、その……もしや、トランクをお間違いになられたのでは……」
ひどく歯切れ悪い口調で問われ、首を傾げて開かれたトランクの中身を確かめる。
エレオノーラは、戸惑った。
「別に、間違ってはいないけれど……。あら? ひょっとして、この部屋には魔導武器を持ち込んではいけなかったのかしら?」
生家では、自室で自分の魔導武器を管理するのが当たり前だったが、家ごとに違うやり方があって当然だ。
しかし、万が一の事態に備えて、やはりいくつかは手元に置いておきたい。
少し迷ったエレオノーラは、恐る恐るメイドたちを見る。
「あの……クリストファーさまにお願いしたら、魔導武器を自分の部屋に置いておくことを、許可していただけないかしら」
その問いかけに、メイドたちがぽかんとした顔を見合わせてから、揃って首を傾げる。
素晴らしい息の合いように、思わず感心してしまう。
「あなたたち、仲がいいのねえ」
「……えぇと、ハイ。あの、エレオノーラさま。改めて確認させていただきたいのですが、こちらの魔導武器の数々は、エレオノーラさまのご愛用の品なのでしょうか?」
艶やかな黒髪に黒い瞳の、一番年長らしい落ち着いた印象のメイドの問いかけに、エレオノーラはあっさりと頷いた。
「ええ。少し旧式のものもあるけれど、どれも頑丈で使いやすいの」
そう言うと、開かれたトランクの中をまじまじとのぞきこんでいた、赤い髪に琥珀色の瞳のメイドが、ぼそぼそと呟く。
「……第二世代の魔導剣に、第五世代の対大型魔獣専用魔導武器、通称《ディルムッド》。第六世代の広範囲攻撃型魔導武器、通称《ヌァザ》。第四世代の超遠距離攻撃型魔導武器、通称《ルフタ》。え……何これ、まさか全部本物?」
あら、とエレオノーラは目を瞠る。
「あなた、随分詳しいのね」
待機形態の魔導武器は、どれも黒一色の薄い板状の直方体だ。そのサイズと、側面に刻まれている金色のシリアルナンバーだけで種類を特定できるとは、このかわいらしい顔をしたメイドは、かなりの魔導武器マニアと見た。
「ひょわあ!? あ、いえ、あの、失礼しましたぁ! あたし、魔導武器が大好きで、つい……!」
わたわたと頭を下げて謝罪する彼女をじろりと見た最後のひとり、胡桃色の髪にはしばみ色の瞳をしたメイドが、少し困惑した様子で口を開く。
「お騒がせしてしまい、申し訳ありません。エレオノーラさま。ひょっとしてエレオノーラさまは、ご実家で魔獣討伐任務に参加されていたのでしょうか?」
「ええ、もちろん。それがどうかしたかしら?」
なぜそんなことを尋ねるのだろう、と不思議に思った彼女に、黒髪のメイドがにこやかに言う。
「なんでもございません。そういうことでしたら、こちらの魔導武器を収納できるロッカーを、すぐに設置させていただきますね。準備が行き届いておらず、申し訳ございません」
「いいえ、本当に急なお話でしたもの。こちらこそ、慌ただしくてごめんなさいね。――あの、あなた方のお名前を聞いてもいいかしら?」
見たところ、この三人のメイドたちはエレオノーラとさほど年が変わらない。
おそらく今後、エレオノーラの専属メイドとして働いてくれる者たちだ。その顔と名前は、できるだけ早めに一致させておきたかった。
そんなエレオノーラの気持ちが伝わったのか、黒髪のメイドがフローラ、赤い髪のメイドがキャロル、胡桃色の髪のメイドがベリンダと、それぞれ名乗る。
どうやら三人の中で、黒髪のフローラがリーダー格らしい。
通信魔導具で魔導武器の収納ロッカーを手配すると、改めてにこりと笑いかけてくる。
「それでは、こちらの魔導武器以外の戦闘服やドレスなどを、先に片付けさせていただきますね。エレオノーラさまは、お好きなお茶の銘柄などはございますか?」
「いえ、特にこだわりはないわ。ありがとう」
お茶会の場で、周囲の話題にきちんとついていけるように、この国で流通している茶葉については一通り識別できるよう、訓練は受けている。
そのため、それぞれの茶の違いは一応把握してはいるけれど、それだけだ。
周囲の女性たちは、みな好みの茶葉があるようだったが、エレオノーラにとってお茶は単なる社交の道具であって、それ以上でもそれ以下でもない。
(そういえば、以前そう言ったとき、なぜかスタンリーには悲しい顔をされてしまったのよね……。どうしてかしら)
ふと弟の顔を思い出していると、頷いたフローラが再び問うてくる。
「了解いたしました。――エレオノーラさま。あちらの魔導武器ですが、第六世代の《ヌァザ》は、たしか二年前に一般流通がはじまったものだと記憶しています。それがあれほど使い込まれた状態というのは……その、どなたかからの贈り物なのでしょうか?」
「いいえ。流通当初に導入してから、わたくしがずっと愛用しているものよ」
それがどうかしたのだろうか、と首を傾げたエレオノーラに、フローラが一瞬息を詰めたあと、深々と頭を下げた。
「……申し訳ありません、エレオノーラさま。どうやら、オルブライト公爵家から通達されたエレオノーラさまのご経歴について、こちらで伝達ミスがあったようです」
