本日より、弊社社長と疑似子育て始めます


彼はひとつの企業を束ねる社長という立場であり、いずれは同じような環境に身を置く女性が隣に立つのだろう。

一哉は『彼女とは二度と会うこともない』と言っていたけれど、亜沙美だけでなく彼の恋人や妻のポジションを欲している女性はたくさんいる。今は女性を煩わしく感じているらしい一哉だが、いつ彼が恋に落ちるかわからない。万が一、それが野々花が居候させてもらっている間に起きたとしたら、自分の存在は邪魔以外のなにものでもない。

期間限定とはいえ女性社員が社長の自宅で一緒に暮らしているなんて、相手の女性にとって不愉快であろうことは恋愛経験ゼロの野々花でもわかる。

(もしも社長に好きな女性ができたら、すぐに出ていかなきゃ)

一哉は双子の育児を手伝う代わりに金銭的報酬を出すと言ってくれたが、それは断固として断った。家賃や光熱費を払わなくて済む上に、食費なども受け取ってくれないのだ。

真ん中の弟が高校受験を控えているため、火事に遭ったなどと言って家族に心配をかけたくなかったし、いつも通り実家に仕送りができるのはありがたい。けれど、彼の迷惑になるのであればすぐに出ていかなくては。

「……でも、もう少し今の生活が続いたらいいな」

会社の廊下を歩きながら、本音が零れ落ちる。