本日より、弊社社長と疑似子育て始めます


「いえ、そんなことは――」
「馴れ馴れしい呼び方だな」

野々花の言葉を遮るように口を挟んだ一哉の低い声に、野々花だけでなく相澤も驚いた顔をしている。いつも冷静な一哉が不機嫌さを全面に出すところなど見たことがない。おそらく、野々花の後ろにいる三柴や文乃も同様だろう。

「……なに、どうしたんだよ急に。今さらそこにツッコむ?」

相澤が仕事でかかわる女性社員を名前で呼ぶのは、少なくとも野々花が入社した当初からだ。彼が『今さら』と怪訝に思うのも無理はない。

ミーティングルームに微妙な空気が流れる。苛立った声を発した一哉を案じ、野々花はそっと彼を窺った。

「社長?」
「いや、悪い。なんでもない」

バツが悪そうに口元を押さえた一哉は、野々花の視線から逃れるように顔を逸らした。そんな一哉の様子を見た相澤は、面白いおもちゃを見つけた子供のような瞳を彼に向ける。