「お帰り。洗い物今終わったところ。のんちゃんが一生懸命手伝ってくれたよ」
大和が言うと、和花が「えらいでしょ」と得意げに両手を腰に当てる。
「のんちゃんもお手伝いありがとうね。大和も、いろいろとありがとう、助かります」
ふたりにお礼をして野菜の入った袋を床におく。すると和花は目ざとく見つけて聞いた。
「あ、おやさいだ! 裕翔くんきたの⁈ かえっちゃった?」
「そうだよ、のんちゃんによろしくって」
サラリと答えて終わろうとしたのに、大和は和花に尋ねる。
「和花ちゃん、裕翔くんて誰?」
「うんとね、裕翔くんはねママとなかよしなの」
誤解を招くような言い方に、私は即座に訂正する。
「違うの。杉崎さんはね、職場の同僚なんだ。妹さんと同い年だからって私の世話を焼いてくれて本当にいいお兄ちゃんて感じで……この間も私を病院まで送ってくれたんだよ」
彼の妹さんは私と同い年で、東京で働いているという。だから、私のこともつい妹みたいに接してしまうし、和花は姪っ子のような存在なのだと彼から聞かされている。
全て本当の事なのに、大和はどこか腑に落ちない様子で「妹ねぇ」小さく首をかしげる。
「下心があるんじゃない?」
「まさか⁈ 杉崎さんに限ってそれはないよ。私たち親子が困った時、いつも助けてくれるし、あんないい人他にいないと思うの」
大和の言葉を否定したかったわけじゃない。ただ、杉崎さんのことをそんな目で見てほしくなかっただけ。
「そっか、ごめん。……彼みたいな人が傍にいたら、亜子も安心して生活できるな。よかったじゃん」
まるで突き放すような言い方で、この話を終わりにする。沈黙が訪れる。だから、私は何も聞けなくなる。杉崎さんが話していた同僚の恋人の存在、私たちの未来も、全部。
「そろそろ帰るわ」
唐突に言って、大和は和花を抱き上げる。
「じゃあね、のんちゃん。今日は楽しかったよ」
「先生、もうかえっちゃうの? お泊まりしていってよー」
離れ難くて愚痴る和花を宥めながら大和を見送った。
「ママ、先生また来てくれる?」
「来てくれるといいね」
曖昧な返事をして誤魔化す。もうきっと、会うことはないだろう。

