Oh! My リトルマーメイド

阿海(アーハイ)、阿海! 今月号のDante、すっごい反響だよ!」
 騒々しく楽屋に入って来たのは、世海のデビュー当時から世話をしてくれてる、マネージャーの陳宇翔(チェン・ユーシャン)だ。その手には今月号のDanteが握られている。
「そう」
 気乗りしない様子で、世海(シーハイ)はスマホをいじっている。
「いやあ、超絶不機嫌で撮影に挑まれた時はどうしたものかって気をもんだけど、逆にエディが気に入ってくれてよかったよ! 本当に! こんなに美しく撮ってくれるなんてさすがエディだ!」
 Danteを撮影したカメラマンを褒めそやすマネージャーにうろんな目を寄越し、世海は面白くなさそうにまたスマホに目を落とした。
 撮影当時、世海はファンのみんなに『エリック王子の微笑み』と呼ばれてる笑顔がまったくできず、宇翔にどんなになだめすかされても眉間の縦皺を消せなかった。そんなことは今まで一度もなかったのに、どうしたものかと内心焦っていると、Dante専属のカメラマンで、被写体の色気を引き出すのが抜群にうまいと定評のある、エディ・ソンが声をかけてきたのだ。
「その不機嫌な顔を誰に見せたい?」
 その言葉を聞いた瞬間、脳裏に浮かんだ顔に世海は動揺し、パシャっとシャッターが切られる音がした。
「いいなーその顔。このままでいいよ。これで行こう」
 そこからはスムーズだった。
 エディはレンズの向こうに世海を苦しめる存在を意識させ、世海はその存在に挑むように目線を投げつけた。
 自分を苦しめて解放してくれない人、こんなに苦しめてることに気づかずに微笑む人。
 カメラの向こうに存在する彼女を睨みつけ、それでも最後はその笑顔を見つめ続けることができずに目を伏せた。
 撮影はそこで終了。
 エディはすこぶる機嫌がよかった。
「君をここまで固執させるなんて、相手はどんな子なの?」
 聞かれたところで答えようがない。
 なにせ幼い頃に分かれてから二十年以上会ってなくて、ようやくこの間再会を果たしたばかりなのだから。どんな奴なのか知る筈がない。
「もう早速CMのオファーが来てるからな。これから忙しくなるぞ」
 宇翔の嬉しそうな声に、世海は我に返った。
 あの時の撮影は、とても新鮮な体験だったが、世海は少し複雑だった。
 エディに焚き付けられたとはいえ、あの時、世海は完全に素の自分になっていたのだ。
 カメラのレンズの向こうに、彼から笑顔を消した存在と個人的に対峙していた。出来上がった写真を見た時、なんだか丸裸にされたようで直視することができなかった。
 それなのに反響がいいなんて、まるで彼女のお陰みたいじゃないか。
 世海の眉間のシワが、さらに深くなっていく。
「そのシワ、クセにしないようにな」
 宇翔から注意され、世海はますます仏頂面になった。