Oh! My リトルマーメイド

「いらっしゃい……おお、エリック」
 疲れ切った体で馴染の店に行くと、店主の俊宏(ジュンホン)が出迎えてくれた。
 世海は何も言わず、いつもの席に座った。
「なあ、どうだった。お前の初恋の君。もう俺気になっちゃって仕事が手につかなかったよ」
 興味津々にこちらを見る友人を睨みつけ、世海はふんっと鼻を鳴らした。
 初恋の君だ? ああ、会ったよ。予想通りやたら背が高くて無駄に姿勢の良い女になってた。普段着だったら少しは話しかけやすかったかもしれないのに、いかにも仕事で来ましたっていう服装だったから声かけそびれたし、こっちに気づきもしないで一人ですたすた歩いて行くから慌てて追いかける羽目になったし。なんなんだよ仕事できますアピールかよ。ノースリーブ似合ってたけど。車でも景色と自分の話しばっかりで俺のことちっとも聞かないし、聞いてくるのは家族のことばっかりだし、なんだよあれ、あなたに興味はありませんよって言いたいのか。俺だってないよ! あんな馬鹿みたいにやたら食う女こっちから願い下げだ。食べ方が綺麗だからそう見えないけど、明らかに俺の倍以上は食ってた。せっかくスタイルがいいのに、絶対に太るぞ。俺より太ったらどうするんだ、俺が食って太るしかないじゃないか。父さんも母さんもばあさんも親戚の奴らも、簡単にあいつに丸め込まれやがって、あんなやつどこがいいんだ。ばあさんとばっかり話して、ばあさんのことあんなに心配して……。
「恋人がいた」
「は?」
 聞き返してくる俊宏の言葉も耳に入らず、世海は淑芬の足元に跪いて彼女を心配そうに見上げていた海帆の横顔を思い出していた。
「恋人がいたんだ」
「……………………」
 俊宏は何も言わずに店の冷蔵庫から瓶ビールを四、五本手に取り、世海の目の前に並べた。
「恋人がいたよ」
「わかったよ。まあ飲め」
 俊宏は世海のためにビールの蓋を開けてやり、世海はそれを半ば無意識に口に持っていき、味も何も感じずに飲み下す。
 目の前には、最後に見た海帆の笑顔がちらついていた。