十字架で埋め尽くされた広場を、青年は足早に進んで行く。

リンゴを抱えたままその後ろをついて行くと、不意に彼の傷だらけの手が目に留まった。

泥と土……それから赤黒い《何か》がこびりついた彼の手。

「そういえばアンタ怪我してんじゃん。痛くないの?」

リンゴを齧りながらそう尋ねると、突然青年は歩く足を止めて俺を振り返った。

「すぐに治る」

「……え?」

青年のそこ答えに思わず声を漏らすが、青年は前を向き直りそれ以上何も答えない。

次の瞬間、突風の様な強い風が吹き、どこからか飛んで来たのか、白い花弁が悲しく宙を舞っていた。

「……アンタが作ったんだろ?……この墓」

その俺の問い掛けに青年は微かに俯き、そして動かなくなった。

その後ろ姿がなんだか泣いている様に見えて、横から青年の顔をチラッと覗いて見る。

「……俺は守れなかった。村のみんなも……大切な人も」

風に掻き消えてしまいそうなか細い声でそう呟いた青年の視線は、広場の中央の十字架へと向けられていた。

十字架に結び付けられた真っ赤なリボンが、時折吹く風で悲しげに揺れている。

それを見つめる青年の蒼い瞳が……悲しそうに揺らいだ気がした。