薄暗い森の中を、草木を掻き分けながら進んで行く。
僕の背よりも高い草木がバシバシと顔や体に当たり細かな傷を僕に刻むが、そんな事は気にもせず真っ直ぐに森を突き進んで行く。
……会いたい。
……もう一度、あの人に会いたい。
なぜそう思うのかは分からなかった。
ただ強く僕を惹き付ける《何か》があった。
薄暗い道を黙々と歩き、ついに男と出会った場所までやってきた。
キョロキョロと辺りを見回すが……そこに男の姿は無い。
「やっぱり……いるわけないか」
よく考えれば当たり前の事だった。
何故ここに来ればまた会えるのかと思ったのだろうか。
何かに突き動かされる様に城を飛び出してきた自分が可笑しくなり、クスリと自嘲気味に笑った。
それに彼に会って……僕はどうするつもりだったんだろうか。
彼は魔族で……人間の敵。
僕は人間で……彼等の敵。
……会っても何も出来ないのに。
「……帰ろう」
肩を落とし小さく呟くと、城に戻る為に元来た道無き道を歩き出す。
すると突然、周りから何かの気配を感じた。
「……お兄……さん?」
そっと呼びかけるが返事は無い。
そこには不気味な気配と、何かの荒い息遣いを感じるだけ。
……違う。
……あの人じゃない。
グルリと辺りを見回すと、そこには数え切れない程の《赤い瞳》が僕を見つめていた。
全く愚かな事にその時初めて、周りを何かに囲まれている事に気付く。
……狩り。
獲物は……僕だ。
その事実を理解し、この森に来て初めて……恐怖を感じた。
その只ならぬ恐怖に、逃げる事も声を出す事も出来ず、茫然とその場に立ち尽くす。
足がカタカタと震え、立っている事も儘ならない。
……怖い。
何と僕は馬鹿なんだろうか。
夜の森は危険だと、昔から何度も言われていたのに。
安易な考えで森に入った事を後悔した。



