*

まるでロイの悲しい心を映すかの様に、更に激しい雨が降り注ぎ雷鳴が轟く。

その次の瞬間、空から黒い影が迫ってきたかと思うと、ストンとジル達の目の前に一人の女が姿を現した。

銀色の長い髪を激しい風に靡かせたその女は、赤い不思議な瞳を蹲る幼い少年へと向ける。

「……フィロ」

ノヴァがそう小さく彼女の名を呼ぶと、フィロはコクンと頷いて少年の元へと歩いて行った。

「撤退する」

フィロはそれだけ短く呟きノヴァを抱き上げると、空から降りて来た魔物の背に乗り込んだ。

「……ま、待て!!」

ロイを抱き抱えたままのジルがそう声を上げると、フィロはそっと振り返り……深い傷を負った《勇者》を見つめた。

「……愚かな男ね。甘くて温い哀れな男。でも……感謝するわ。今日は貴方の《優しさ》に免じて退きましょう」

フィロはそう言って微かに笑うと、空に向かってそっと口笛を吹いた。

すると空を舞っていた夥しい数の《黒い影》は遥か彼方の空の果てへと向かって飛んでいく。

「……ロイは……ルークに……似てる……ね?……優し……過ぎる……ところ……が」

ノヴァが小さく呟くと二人を乗せた魔物は空高く舞い上がり、フィロの口笛と共に町にいた魔物達も空へと昇って行った。