「……お母さ……」
「何の嫌がらせなの……こんな物!!」
母はそう声を荒げると、グラスに入っていたお酒をガブガブと飲み干した。
そして空になったグラスをダンとテーブルに叩きつけると、刺す様に鋭い瞳で僕を睨みつける。
「赤い靴はお父さんが買ってくれた物なのよ!やっと全部捨てたのに!せっかく忘れ様としているのに!!……お前って子は!!」
母はそう叫ぶと手にしたグラスを壁に向かって投げ付けた。
壁に当たり砕けたグラスの破片が宙を舞い、そしてその欠片は僕の頬を掠める。
茫然と立ち尽くし震える瞳で母を見つめる僕の頬を、真っ赤な血と……涙が流れた。
じわじわと溢れる血と涙は交じり合い、ポトポトと悲しく冷たい床に落ちて行く。
そんな僕の姿を母は傷付いた様に瞳を揺らして見つめ、それからそっと僕の頬へと手を伸ばす。
しかし僕はその手を振り払うと、涙の溢れる瞳で真っ直ぐに母を見つめた。
「お母さんはそうやって泣いているだけじゃないか!!僕だって一生懸命やってるんだ!!」
……母に向かって声を荒げたのは初めてだった。
「お父さん、お父さんって……お父さんはもう死んだんだ!!そうやって泣いてたってお父さんは帰ってこない!!」
そう叫び涙を流したまま嘲笑を浮かべて見せると、母の震える瞳からポロポロと涙が零れて行く。
……でも僕は止めなかった。
「……僕がいるのに。僕が傍にいるのに。……僕を見てよ!!」
そう叫んで机の上の酒瓶を壁に向かって投げつけると、泣き続ける母を置いて逃げる様に部屋から飛び出した。



