日の出と共に目を覚まし、天井に向かって大きく腕を伸ばす。
母を起こさない様に忍び足で部屋を出ると、いつもの様に仕事場に行き皿を洗った。
……今日はお母さんの誕生日だ!!
真っ赤な靴を嬉しそうに履く母の姿を思い浮かべている間に、あっという間に今日の仕事は終わっていた。
給料を受け取り厨房に向かって頭を下げると、急いで靴屋へと向かう。
勢いよくドアを開くと、扉に付いている鈴がいつもより大きく鳴り、笑みを浮かべた店主のおじいさんが奥から出てきた。
「ほれ、プレゼント用に包んでおいたよ」
そう言っておじいさんはニヤリと笑って、綺麗に包まれた箱をカウンターに置いた。
「ありがとう!!」
煌びやかなリボンで彩られた箱を抱き締めたままニッコリを笑みを返すと、おじいさんは何かのカードをトンとカウンターに置く。
「サービスでカードも書いていきなさい」
そう言っておじいさんが指差したのは……誕生日の《メッセージカード》だった。
白い二つ折りにされたカードに、可愛いリボンの模様が入っている。
その空白にメッセージを書くものだとは知っていたが……一つ大きな問題があった。
「僕……字が書けないんだ」
そう小さく呟いてシュンと肩を落とす。
学校に行った事が無かったので、読む事は少しできたが、書く事は全くできなかった。
俯く僕の姿を見ておじいさんはうんうんと頷くと、メモ帳に何かを書きそれを僕の目の前に置いた。
「それを見ながら真似して書けばいいさ」
そう言っておじいさんは僕の手にそっとペンを握らせてくれた。
絶対に失敗しない様にこれでもかと意識を集中させ、一生懸命おじいさんの書いてくれた紙を見ながらカードに書き写す。
小一時間程かかってしまったがなんとかカードを書き終えると、おじいさんはそれを封筒に入れて緑のクローバーのシールを貼ってくれた。
「……ありがとう」
靴の入った箱とメッセージカードを抱き抱えたまま、おじいさんに深々と頭を下げる。
するとおじいさんは小さく首を横に振って、《またいつでも遊びに来なさい》と優しく笑った。



