……明日はお母さんの誕生日だ。
待ちに待った日に浮かれながら、薄暗い道を痛む体の傷も忘れ軽快に走る。
裏路地を曲がればそこは僕の家のあるボロボロのアパート。
五階まで階段を一気に駆け上がると、家の扉の前で息が整うのを待つ。
……よし。
心の中で小さく声を上げゆっくりと扉を開けると、いつもと変わらずに母がテーブルに突っ伏して眠っているのが見えた。
音を立てない様にそっと扉を閉め、眠っている母の様子を窺う。
母はテーブルに突っ伏したまま、スウスウと寝息を立てていた。
……どうやらぐっすりと眠っている様だ。
床に落ちたままのタオルを拾い上げるとそれに付いている埃を払い、それをそっと母の肩に掛けた。
その僕の手が母に振り払われる事は無く、薄いボロボロのタオルは優しく母の体を包み込む。
不意に母の顔を覗くと、母の閉じられた瞳から一筋だけ涙が流れていた。
それは音も無く母の白い頬を伝い、ポトリとテーブルを濡らした。
本当は……起きているのかもしれない。
そんな事を思ったまま静かに台所に行くと、母のためにサンドウィッチを作る。
今日は遅刻したせいであまりお金が無いので、バターとちょっと古いイチゴジャムだけのサンドウィッチ。
覚束ない手付きでサンドウィッチを作ると、それをそっと母の眠るテーブルに置いた。
一個だけ余分に作ったサンドウィッチ手にしたまま窓際の壁に背を付けると、サンドウィッチをパクリと齧る。
よく考えたらこれが今日初めての食事だ。
まぁ最近は食べたり食べなかったりして……あんまり関係ないけど。
そんな事を考えながらサンドウィッチを食べ、荒れた部屋の片付けを終えると、部屋の隅で壁に寄りかかったまま眠った。



