「……ま、魔物だー!!」

俺の真後ろから、男の不吉な叫び声が聞こえた。

……ほらきた。

そんな事を心の隅で思いながら、男の指差す薄暗い空を見上げる。

すると甲板の明かりに映し出される様に、小さく上下する大きな黒い影が目に留まった。

それは大きな鳥の様な姿をした魔物だった。

上空数十メートルの所で大きな黒い翼を羽ばたかせ、赤く鋭い瞳が俺達の様子を窺っている。

「……これは……マズいんじゃないか?」

そう声を震わせて呟き、魔物に臆する様に一歩後ずさる。

……湖の藻クズ話が現実に……って、最悪だ。

途端に滲み出した冷や汗が背中を伝い、心臓がドクドクと鼓動を速める。

「大丈夫だ!!メルキアは女神様に守られているんだからな!!」

さっき叫んだ男とは別の男がそう声を上げ、ニヤリと勝ち誇った様な笑みを浮かべた。

「……女神様……どうか我々をお守りください」

そう言って男は目の前で手を組み目を閉じると、ブツブツと何かを呟き始める。

「……女神様……女神様」

それと同じ様に、甲板に居た人達は皆手を組み、必死に何かに祈りを捧げていた。

……女神?

セリアに問いかける様に視線を送ると、セリアは不思議そうに首を横に振って困った様に首を傾げて見せる。

……その瞬間だった。

突然辺りを眩い光が覆ったかと思うと、上空に見えていた魔物の姿が消えた。

確かに魔物が飛んでいた筈のその場には、静かな夕闇が広がるだけで……魔物の姿はどこにも見えない。

「ど、どういう事だ!?」

振り向いて二人に問いかけるが、二人も何が起こっているのか理解できない様で……茫然と魔物の消えた空を見上げていた。