大好きな幼馴染は既婚者子持ち

「ゆりちゃん」
「蒼くん」

 名前を呼べるだけで幸せだ。そばにいられるだけで胸が温かい。

 蒼くんと目が合う。いつもなら、途切れることなく続く会話なのに、会話がなかった。顔が、蒼くんの顔がわたしに近づいてくる。

 わたしは反射的に俯いてしまった。すると横からガバッと蒼くんに抱きしめられた。

「絶対に幸せにするから。もーみんなに早く自慢したい」

 わたしの頭のてっぺんで呟く蒼くん。カーって顔が熱くなる。こんな場所で恥ずかしすぎる。

「あんまりにもゆりちゃんが可愛いからさ、ごめんな。そろそろ帰ろうか」

 蒼くんがギターを背負う。なんとかわたしと手を繋ぎながら。ああ、帰っちゃう。キスするつもりやったんかな? したかったのに、なんで俯いちゃうんやろ。わたしはやっぱりあほすぎる。蒼くん傷ついたかもしれへん。だけどなんてフォローしたらいいかわからないから、なにも言えなかった。

 改札で手を振って別れる。わたしはひとり家まで歩く。

 わたしは英語を勉強するために、大学を受験するつもりで英語に重きをおいたカリキュラムを組めるクラスを2年では選んだ。普通の高校生と、バンドマン。なんか自分しょぼすぎる。蒼くんの努力している姿、見ているし知っているからなおさらだ。バンドや音楽に対してもだし、それと同じぐらいにわたしにも真っ直ぐでいつも熱い。

 ほんまにわたしでいいんかな? 

 蒼くんの体温が、まだわたしに残ってるみたい。ふわふわする。初めてぎゅってされた。あんなに男の人の体が大きくて、温かくてドキドキするなんて知らなかった。

 類斗も同じように、女の子とこんなことしてるのかな? 別にわたしにはなんにも関係ない。勝手に幸せになって、って突き放そうと思ったけど、修学旅行でのベッドの中も思い出す。

 触れられる距離にいる蒼くん。そんな彼に手を伸ばしたり、唇を重ねないなんて絶対に後悔しか残らない。蒼くんの気持ちに答えないと。

《今日もありがとう。明日の始業式のあと、会える?》

 わたしは眠る前にメールを送った。蒼くんは入浴中だろうか、返事はなかった。ベッドに寝転んで、蒼くんの体温と顔が近づいてきたときのことを鮮明に思い出す。さっき会ったばかりなのに、もう会いたかった。

 ありえない。類斗以外にこんな気持ちになっちゃうなんて。わたしは体を起こして、下に降りて水を一気に飲んだ。

 わたしもがんばらないと。蒼くんに追いつかないと。机に座って、問題集を開く。シャーペンを握りしめるのに、右手に痺れるような蒼くんのぬくもりを感じてなにも出来なくなってしまう。