大好きな幼馴染は既婚者子持ち

 わたしたちは帰り際に受け取ったジュースを飲みながら、暗くなってきた外に出た。ありえない……。

 隣の美亜もぼうぜんとしていた。

「無理、都馬くんかっこよすぎて……もう無理」
「え」
「それになにあの最後の曲……。もうバラード調の曲の歌い方最高すぎる。まじで悠莉ありがとう連れて来てくれて」

 わたしは振り返ってライブハウスを見る。魔法みたいな場所だ。ありえないぐらい蒼くんが遠い。いつも触れられそうなぐらいの距離でいるはずなのに、今日は遠くて少しだけ寂しかった。みんなに向けられる演奏。本当に楽しそうに笑う顔。真剣な目。全然初めてばかりだった。ずるい。こんなの強烈な攻撃すぎるやん!

「ゆりちゃーん!」

 駅に向かって歩いてると、蒼くんの声がしたので振り返る。

「やーありがとう。気つけて帰ってな。俺片付けがあるから」

 わたしは言葉が全く出てこなくて焦る。言わなきゃ。

「蒼くん」
「ん?」

 振り返る蒼くん。

「ありがとう、誘ってくれて」
「おー! また学校で」
 
 だめだ、言えない。立ち去る蒼くんを見て大きなため息が出た。

「都馬くん、また会えないかなあ」

 美亜はとろけるような表情だった。

「そうやなあ、蒼くんに聞いてみるね」

 再びわたしは振り返る。蒼くんの後ろ姿が遠ざかる。今すぐ飛びついて、大好きって言いたいのに。わたしの方があなたのこと大好きだって。絶対に、デートで告白しよう。ライブが云々じゃない。わたしは蒼くんが大好きだ。

 帰りの電車ではわたしたちは無言だった。ラーの音楽が耳や体に残っている。それを逃したくなくて、窓の外をぼんやりと見ていた。

 わたしはケータイを鞄から出す。

《道大丈夫? わからんかったら電話して!》
《さっきは会えて嬉しかった。元気もらったわ。いよいよ始まるー!》
《見に来てくれてありがとう。遅くなってごめんな。気をつけて帰ってや。なんかあったら電話して、すぐ行くから》

 気づかなかったが、 蒼くんから何件もメールがきていた。

《今日はありがとう。すごくかっこよかった。耳にも体にもラーの音楽が残ってて、余韻に浸りながら美亜と帰ってるよ。デート楽しみにしてる》

 すぐに返事がくる。

《嬉しい。全部、ゆりちゃんのためにギター弾いた。あんなに楽しめたの初めてやわ。デート、どこ行くかまた考えよう!》

 はあ、と思う。幸せすぎる。目を閉じる。早く、蒼くんに会いたかった。