大好きな幼馴染は既婚者子持ち

 九月に入って、それからクリスマスになっても類斗はやって来なかった。

「実はさー類斗から口止めされてたから言わんかったんやけど、引越してんあいつ」

 奏也の部屋でシャンメリーを開けている時だった。部活で忙しいとばかり思っていたのに。

「え? なんで?」

 文香が先に喋った。

「ようわからんねんけど、親が離婚したかなんかで。おばちゃんの実家の近くに引っ越したみたいやで」
「そうなん? どこ?」
「F県やったかな?」

 F県となると、ここからは飛行機で行かないといけない。

「それが実は夏休みの終わりぐらい。突然決まったみたいやで。類斗もめちゃくちゃ落ち込んでたわ。寂しくなるからお別れも言いたくないし、普通に別れたいからって。夏休みに俺の家泊まった日に聞いてさ、びっくりしたわ」

 心がえぐりとられたみたいに、ぐわって倒れそうになった。

 教えてくれてもよかったのに。確かに聞いたところで引越しはとめられないだろうけどさ、それでもなにか変わったかもしれないのに。ありえない。類斗! もう嫌い!

「俺からのクリスマスプレゼントや、類斗のこと」
「よく黙ってたなあ」
「ほんまそれ」

 3人で唐揚げとか食べて、テレビ見ながらばかみたいに笑っているのに、笑おうとしないと笑えないわたしがいた。

 不思議だ、引越ししただけなのに永遠に会えないみたいに感じてしまう。

 ぷつりと切れた、もう会えないんだって。

 類斗以外を好きになれるチャンスがきたんだ。食べてるはずなのに、唐揚げもシャンメリーも全然味がしなくて、わたしはずっと上の空だった。

 それから、文香は好きな先輩に会いに行くとかなんとかでいなくなって、日向くんたちが来て、ゲームが始まって、わたしは帰ることにした。

 珍しく、外まで奏也が出て来てくれた。

「気をつけて」
「ありがとう」
「類斗のこと黙っててごめんなー」
「いや、類斗から言われたんやったら、奏は悪くないよ」
「まあそうやけど、別れも言わんなんかありえへんやろ? 俺も会ったのは大川たちと一緒の日が最後やで」
「そうなん?」
「とにかく、黙っといて。大川をよろしくって。何回も言ってた」
「じゃあ、バイバイ、またね」
「おう、じゃあ」

 ああ、ペダルってどうやってこぐんだっけ。と思ってたら、両目から大量の涙が出てきた。本当にあほみたいだ。類斗に費やした時間も気持ちも。あほみたい。泣き終わったら、類斗のこと忘れようって思ったのに、泣いたらさらに類斗との思い出が出てきて「ゆりちゃん」って言う声が聞こえる気がした。