大好きな幼馴染は既婚者子持ち

 ありえない、ありえない、ありえる。類斗の手の感覚が蘇る。わたしは仕方なく、505号室に戻った。文香たちはまだゲームを続けている。

「ああ、またお菓子忘れちゃった」

 と、あほみたいな嘘ついてやり過ごす。しばらくすると類斗が戻って来た。わたしと目が合ったはずなのに、すぐにそらされた。ありえん。

「郁ちゃんたちなんやったんー?」
「いやーえっと……」
「先生見回り来てるみたいやで! 隠れろ!」
「おーい、寝る時間やぞー」

 外から先生の声がする。ドアが開く。わたしは布団にもぐる。類斗は慌てて電気を消し、わたしがもぐった布団に入って顔だけ出す。奏也と文香はいつの間にか隣のベッドに入っていた。

「おやすみー明日は七時からごはんやでー遅れるなよ」

 と言って、先生は部屋を出て行った。近い。類斗が。暖かい。やばい手も体も近い。ぎゅーって抱きつきたくなる。

 郁ちゃんと手繋いでたな。無事付き合ったんだな。そしたら、こんな風に近づいてたら郁ちゃんに怒られるし、なんなら類斗嫌なんじゃない? って思ってたけど、ずるいわたしは動けなかった。とりあえず、類斗とは逆の方に顔を出す。少し離れてるのに、ばかみたいに類斗の体温を感じる。全身で類斗が好きだと言っているみたいで気づかれそうだし、心臓の音がうるさいしでもう全然眠れそうになかった。

 類斗は寝てるのかな、起きてるのかな。でも大好き。悔しい。なんで郁ちゃんなんだろ。可愛いもんな。それに優しくて思いやりのある性格。まさしく類斗。お似合い。なんかこれから類斗と居づらくなるな、とか考えてたら、ほんとにいつの間にか眠ってて、慌てた。

 ああ、そうそう。わたしは類斗と同じベッドで寝てたんだった。なんかあったかいもんなって思ってると、すぐ隣に綺麗な顔した類斗が目を閉じていた。近くで寝顔を見たのは初めてだ。心の中で、類斗大好きって叫んだ。困らせたくないから、言えないけど。ああ、郁ちゃんの顔見たくないな。ちょっとだけ触りたいな。だめだよな。友達以上にはなれないな。

 だけどその時うっすらと、類斗の目が開いた。

「ゆりちゃん、足大丈夫?」

 小さな声で類斗が言う。

 足? ああ、やっぱりさっきわたしがいたのバレてたんだ。ちょっと膝打っただけなのに。

「え……大丈夫」

 郁ちゃんとのこと思い出して、そっけなくしてしまう。近づきたいのに、こんなに近くにいるのに類斗が遠い。彼女出来たよって報告してほしいのに。でも聞きたくない。

「戻るね」

 わたしが布団から出ようとすると、わたしの手首を類斗は掴んだ。

「どこぶつけた?」

 わたしの足元に手を伸ばす。恥ずかしさに、体が痺れる。

「大丈夫やってば、戻るね」

 手首が熱っぽい。落ち着いていたはずの心臓の音がまた高鳴る。あほみたいだ、類斗に振り回されすぎてる。