――…

「姫様!じっとしていてくださいっ。
これじゃあ、ちゃんとドレスを着けれないですよ!」



イヤイヤながらも、兄様から侍女達に引き取られ、教育係りのマシューに叱られたのが数時間前。


今はこうして、パーティーの為に正装の準備。

部屋には、数人の侍女が集まり、着々と準備を始める。

「しっかし、まさかすすまみれで見つかるなんて」

マシューは眉間にシワを寄せたまま

やれやれと溜め息。


「マシュー、そんなに溜め息をついたら、幸せが飛んでっちゃうわよ」


身動きできない腹いせに、マシューにひとこと。


「そうさせるのも、姫様なんですよ!


とにかく!
今日は隣国との絆を深める大切なパーティーです!

くれぐれも、姫にあるまじき行為をなさってはいけません、
いいですね?」

「わかっているわ。
で…いつまで私は
この窮屈なドレスを着ていなきゃいけないの?」


はぁ
…姫様は本当にわかっているのかしら…


「確か、晩まで続くと聞いております。

ランチは屋外の北の森近くで、
ディナーはお屋敷の大ホールで
頂くことになっているそうですよ。」

「北の森…?」

「あぁ、そうでした。
姫様はまだ行ったことがおありにないですね?

今年はもう12歳になられるので、しっかりと皆様から離れないように。

あの森は、いろいろ噂のある森ですから、興味本位に探索してはいけませんよ。
大人の方でさえ、迷う人もいるのです。
柵がたてられているので
森の中に入ることはないと思いますけど。」

「……ふーん」


 気の抜けた返事を返しながら、頭の中では
未だ足を踏み入れたことのない森に興味をもつのだった。


 北の森…ね。そういえば、何かの書物で読んだ気がするわ…

「さあ!支度できましたわよ、姫様。
いえ、若菜姫!!

姫様はやはり、暖色のドレスがお似合いですわ。

いってらっしゃいませ!」


そうして、マシューに見送られながら、

深いため息をひとつついて若菜姫はパーティー会場へと足を運んだ。