――…

―――――……


太陽が真上に登るそのころ

薄暗いその林の中に黒髪の少年が倒れていた

身体は擦り傷だらけで、身にまとった衣服はぼろぼろにほつれている



……ここは一体…?…



目を覚まし、自分の今いる場所を把握できずに体を起こす



…っ痛ッ…やっぱり体じゅう痛む……―
確か、崖から落ちたんだっけ…?…



はぁ
と、体を倒して、
昨日までの出来事を思いだす…



「うっ…!」

ズキン!

突如、鋭い痛みが彼の頭にはしる


ズキンズキンっ―!!


……痛ッ!またか!!?


鋭い痛みに耐えきれず
目を瞑る

それと同時に、脳裏には
暗闇の中に一人の少女の姿が映る



金色の腰まであるさらさらな髪
青色の瞳がその髪を際立てていて、
肌は透き通るように白い…



 また少し成長してる……?


少女はこちらを向くことはなく
いつも映るのは、横顔や後ろ姿だけ―



っ…君は一体どこの誰なんだ!?
どうして、俺のところに現れる!?


頭の中で呼びかけるも、返事はなく

代わりに鈴を転がしたような笑い声が響くだけ……―



やがて頭痛はおさまり、少女の姿と笑い声はなくなる



目を開けるが
そこにあるのは先ほどと変わらない景色



「ハァ……ハァ…」
呼吸がうまくできない
生理的な涙さえ出そうになる。




物心つく前から、こうして毎日、頭の中に現れる少女


何かを語るわけでもなく、
聞こえるのは笑い声
見せるのは、ころころ変わる表情と姿だけ



いつしか、彼女に会わなければと
少年の感情を駆り立てるものがそこにあった。



得体の知れない相手に対して
やりきれない想いを胸に、再び目を閉じる。




彼女についてわかることは、
自分と同じくらいの年だということと
その名が……………
“若菜”ということだけ …―