恋愛百景



第3話「あの日の崩壊」

ある朝。

いつも通りのはずだった。

「お母さん?」

呼びかけても返事がない。

次の瞬間、母が血を吐いた。

(え……?)

頭が真っ白になる。

何が起きているのか、理解できない。

「お母さん!?」

声が震える。手が震える。

どうすればいいのか分からない。

それでも、必死に救急車を呼んだ。

病院の廊下。

時間の感覚がなくなる。

医師の言葉が、遠くに聞こえる。

「非常に危険な状態です」

(嘘でしょ)

受け入れられるはずがなかった。

さっきまで普通だったのに。

どうして——

涙が止まらない。

そのとき、

「陽菜さん!」

聞き慣れた声。

振り返ると、早川さんがいた。

息を切らしながら、必死に来てくれたのが分かる。

「大丈夫ですか」

その一言で、張り詰めていた心が崩れそうになる。

(なんで来てくれたの……)

そう思った瞬間、少しだけ安心してしまった。