恋愛百景



第2話「あの日の出会い」

ある日、母が会社の結婚式に出席することになり、送迎を頼まれた。

正直、結婚式なんて遠い世界の話だった。
誰かと幸せになる、なんて——自分には関係ない。

迎えに行くと、母は酔っていた。

そして、その母を支えていたのが、彼だった。

「こんにちは。お母さん、飲みすぎてしまったみたいで……」

申し訳なさそうに、それでも丁寧に母を背負っている。

(この人……)

不思議だった。

怖くなかった。

それどころか、少しだけ安心した。

数日後、母に誘われて食事をすることになった。

(やっぱり無理かも……)

そう思いながら席に着く。

けれど——

「無理して話さなくていいですよ」

その一言で、肩の力が抜けた。

気を遣わせているはずなのに、そう感じさせない距離感。

沈黙になっても、焦らなくていい空気。

(なんでだろう……)

こんなに自然に話せるなんて、思ってもみなかった。

帰りの車の中。

会話はほとんどなかった。

それなのに——

(この時間、嫌じゃない)

むしろ、終わってほしくないと思った。

「では、また」

その言葉が、やけに胸に残った。