恋愛百景


第3話「邂逅の再会」

別れてからの時間は、思っていたよりも早く過ぎていった。

星矢と離れてから、何もかもが少しずつ変わっていった。環境も、人間関係も、そして自分の気持ちも。あの頃のままではいられないと、どこかで分かっていた。

大学に進学してから、何人かと付き合った。優しい人もいたし、一緒にいて楽しい人もいた。でも、なぜか長くは続かなかった。

「なんか、違う気がする」

そう思ってしまう瞬間が、どうしても消えなかった。

相手が悪いわけじゃない。ただ、自分の中にある“何か”が、いつも引っかかっていた。

きっとそれは、過去に置いてきたはずの感情だった。

社会人になり、仕事に追われる日々が始まる。忙しさに紛れて、余計なことを考える時間も減っていった。

新しい街に引っ越してきたのは、そんな頃だった。

見知らぬ景色の中で、少しずつ生活を整えていく。休日、ふらっと立ち寄ったカフェで、何気なくコーヒーを注文したそのときだった。

「……あれ?」

聞き覚えのある声に、思わず顔を上げる。

そこにいたのは――星矢だった。

一瞬、時間が止まったような気がした。

「昭恵……?」

驚いたように目を見開く彼の表情は、あの頃と変わらないのに、どこか大人びて見えた。

「久しぶり」

自然に出た言葉に、自分でも少し驚いた。もっと気まずくなると思っていたのに、不思議と嫌な感じはしなかった。

「こんなとこで会うとか、すごい偶然だな」

星矢は少し照れたように笑う。その笑い方も、やっぱり変わっていなかった。

少しだけ会話をして、そのまま同じ席でコーヒーを飲むことになった。

仕事の話や、最近の生活のこと。お互いの空白の時間を埋めるように、言葉を交わしていく。

不思議なことに、そこに恋愛の気配はなかった。

ただ、昔の友達に再会したような、そんな穏やかな時間だった。

「また、時間あったら飯でも行く?」

星矢が何気なくそう言う。

「うん、いいよ」

軽く答えたその言葉に、特別な意味はなかったはずなのに。

帰り道、ふと胸の奥に小さな違和感が残る。

懐かしいだけじゃない、何か。

けれどその正体に気づくには、まだ少し時間が必要だった。