恋愛百景


第2話「邂逅の終わり」

星矢と付き合い始めてからの日々は、穏やかで、温かくて、当たり前のように続いていくものだと思っていた。

朝、教室で顔を合わせて笑い合うことも、帰り道を並んで歩くことも、何気ない会話でさえ、全部が特別だった。

でも、その“当たり前”は、少しずつ形を変えていった。

三年生になり、進路の話が現実味を帯びてきた頃。星矢は部活と受験勉強に追われるようになり、前みたいに一緒にいる時間は減っていった。

「最近、忙しそうだね」

ある日の帰り道、そう言うと、星矢は少し困ったように笑った。

「ごめん。今ちょっと余裕なくて」

その言葉に嘘はなかった。だからこそ、何も言えなくなった。

寂しい、って言ってしまえば、きっと困らせるだけだと思ったから。

それから、連絡の回数も減っていった。前は当たり前のように続いていたメッセージも、気づけば途切れがちになっていた。

既読がつくまでの時間が長くなっていくたびに、不安が胸の中で静かに広がっていく。

――嫌われたのかな。

そんな考えが浮かんでは、慌てて打ち消す。でも、一度芽生えた不安は、簡単には消えてくれなかった。

私から送る言葉も、少しずつ減っていった。

重いと思われたくなかった。ただ、それだけだった。

ある日、久しぶりに一緒に帰った帰り道。会話はあるのに、どこかぎこちなくて、前みたいに自然に笑えない自分がいた。

「…昭恵、元気?」

そう聞かれて、思わず笑ってしまった。

「元気だよ」

本当は、少しも元気なんかじゃなかったのに。

言葉にできない距離が、二人の間に確かにあった。

その日を境に、私たちはまた会わなくなった。

連絡を取ろうと思えばできたはずなのに、どちらからも踏み出せなかった。

忙しいだけ。きっとそのうち戻る。そう思いながらも、心のどこかで気づいていた。

これは、終わりなんだって。

はっきりとした別れの言葉もなく、気づけば星矢は“彼氏”じゃなくなっていた。

それでも、嫌いになったわけじゃない。

むしろ――あの頃より、ずっと好きだったのかもしれない。

だけど、その気持ちは、伝えないまま終わってしまった。

あの春に始まった私たちの関係は、静かに、そして確かに終わりを迎えた。

まるで最初の出会いと同じように、何も言わないまま、すれ違うように。