恋愛百景

第4話「片思いの返事」

放課後の教室は、夕日だけが静かに差し込んでいた。机の影が長く伸びている。

亮太はカバンを持ったまま、柚木の様子を見ていた。

柚木は少しだけ迷うような顔をしてから、ゆっくり口を開く。

「今日さ」

亮太は自然と視線を向ける。

柚木は一度だけ視線を落として、それから言った。

「一緒に帰ろうって言われた」

亮太の胸が、ほんの少しだけ動く。

「……誰に?」

「クラスの男子」

柚木は淡々と答える。

亮太は窓の外に視線を逸らしたまま、短く返す。

「そうなんだ」

柚木は続ける。

「でも、断った」

その言葉で、亮太の指が少しだけ止まる。

「断ったの?」

「うん」

柚木はそれ以上説明しない。

亮太は少し間を置いてから、また小さく言った。

「なんで?」

柚木は一瞬だけ言葉に詰まる。

「……なんとなく」

その答えが、なぜか少しだけ引っかかる。

亮太はそれ以上聞けなかった。

教室の空気が少しだけ重くなる。

柚木は立ち上がって、カバンを肩にかけた。

「じゃ、帰るね」

いつも通りの言葉。

でも、そのまま教室を出ていく背中が、少しだけ遠く見えた。

亮太はすぐには動けなかった。

(なんで、そんな言い方なんだよ)

胸の奥に、小さな違和感だけが残る。

夕焼けの教室に一人残った亮太は、小さく息を吐いた。

——片思いは、少しずつすれ違いを作り始めていた。