第2話「継承の沈黙」
その日から、家の音が少しずつ変わっていった。
前はもっと、生活の音がしていた気がする。テレビの音、父の独り言、僕に向けた何気ない声。それが今は、静けさの方が先に耳に入ってくる。
父は相変わらず帰ってくると台所に立つ。
でも最近は、一人じゃない時間が増えた。あの女性がいる日、父は少しだけ早く帰るようになった気がする。
僕がリビングにいても、会話はあまり続かない。
「今日はどうだった」と聞かれても、「普通」と答えると、それ以上は広がらない。
代わりに、二人の会話が増えていく。
台所の方から、小さな笑い声が聞こえる。そのたびに、僕はテレビの音量を少しだけ上げた。
ある日、夕食のあと、父が言った。
「最近、いろいろ手伝ってもらってるんだ」
その“いろいろ”が何なのか、僕は聞かなかった。聞いてはいけない気がした。
女性は僕に気を使っているのが分かった。
食器を下げるときも、話しかけるときも、少し距離がある。でもその距離が逆に、家の中に“もう一人の居場所”を作っていくようだった。
母の話は、出なくなった。
意識して消えたというより、自然に出てこなくなった感じだった。
それが一番怖かった。
誰も触れないのに、確かにそこにあったものが、少しずつ薄くなっていく。
夜、布団の中で考える。
この家は、変わっているのに、誰もそれを言葉にしない。
沈黙だけが、少しずつ長くなっていく気がした。
その日から、家の音が少しずつ変わっていった。
前はもっと、生活の音がしていた気がする。テレビの音、父の独り言、僕に向けた何気ない声。それが今は、静けさの方が先に耳に入ってくる。
父は相変わらず帰ってくると台所に立つ。
でも最近は、一人じゃない時間が増えた。あの女性がいる日、父は少しだけ早く帰るようになった気がする。
僕がリビングにいても、会話はあまり続かない。
「今日はどうだった」と聞かれても、「普通」と答えると、それ以上は広がらない。
代わりに、二人の会話が増えていく。
台所の方から、小さな笑い声が聞こえる。そのたびに、僕はテレビの音量を少しだけ上げた。
ある日、夕食のあと、父が言った。
「最近、いろいろ手伝ってもらってるんだ」
その“いろいろ”が何なのか、僕は聞かなかった。聞いてはいけない気がした。
女性は僕に気を使っているのが分かった。
食器を下げるときも、話しかけるときも、少し距離がある。でもその距離が逆に、家の中に“もう一人の居場所”を作っていくようだった。
母の話は、出なくなった。
意識して消えたというより、自然に出てこなくなった感じだった。
それが一番怖かった。
誰も触れないのに、確かにそこにあったものが、少しずつ薄くなっていく。
夜、布団の中で考える。
この家は、変わっているのに、誰もそれを言葉にしない。
沈黙だけが、少しずつ長くなっていく気がした。
