恋愛百景

第1話「消えない春」

高校二年の春。

新しいクラスの教室は、まだ少し落ち着かない空気に包まれていた。

そんな中、扉が開いた。

「今日からこのクラスを担当することになりました、佐倉です」

入ってきたのは、佐倉七瀬。25歳の担任教師だった。

派手さはないのに、不思議と目を引く人だった。
落ち着いた声と、まっすぐな立ち姿。

葉山優斗は、その瞬間、教室の空気が少し変わったように感じた。

(この人、なんか違う)

最初はそれだけだった。

ただの担任。
それ以上でも以下でもないはずだった。

でも——

「大丈夫?顔色悪いけど」

放課後、机に伏せていた優斗に声をかけたのは佐倉七瀬だった。

顔を上げると、少しだけ心配そうな目。

(なんで、そんな顔するんだよ)

その瞬間、胸の奥がざわついた。

次の日も、その次の日も。
気づけば目で追っている自分がいた。

(あれ、俺……)

話せた日は少し嬉しい。
名前を呼ばれた日は、帰り道まで残る。

その感情の正体に気づくのに、時間はかからなかった。

(これ、好きってやつか)

認めた瞬間、もう戻れなかった。