恋愛百景



第4話「あの夏のさよなら」

お盆の最終日。

朝の光が、部屋をやわらかく照らしていた。

私は、ぬいぐるみを抱きしめたまま動けずにいた。

(今日で終わりなんだ)

分かっているのに、受け入れたくない。

「今日は……帰るんだよね」

静かに問いかける。

「うん……」

少しだけ、寂しそうな声。

沈黙が落ちる。

そして彼は、ゆっくりと言った。

「忘れてほしいんだ」

「え……?」

思わず顔を上げる。

「僕のことは忘れていい」

その言葉に、胸が強く痛んだ。

「嫌だよ……!」

涙があふれる。

「忘れられるわけない……!」

声が震える。

それでも彼は、優しく続けた。

「君はこれから、幸せにならなくちゃいけない」

その言葉が、まっすぐ心に届く。

(ずるいよ……)

最後まで、優しすぎる。

「……ありがとう」

涙をこらえながら、そう言った。

その瞬間、ぬいぐるみの重みが、少しだけ変わった気がした。

もう、彼の声は聞こえない。

(行っちゃったんだ……)

静かな部屋の中で、私はぬいぐるみを抱きしめ続けた。