恋愛百景



第3話「あの夏の奇跡」

お盆の初日。

部屋の窓を開けると、夏の風がカーテンを揺らした。

私は、ぬいぐるみを抱きしめながら呟く。

「……会えたらいいな」

叶うはずのない願い。

それでも、口にせずにはいられなかった。

そのとき——

ふわりと、空気が変わった気がした。

「……やあ」

聞き覚えのある声。

私は息を止めた。

「……え?」

目の前のクマのぬいぐるみが、わずかに動く。

「お盆の間だけだけど……会いに来たんだ」

その声は、間違いなく彼だった。

「うそ……」

涙があふれる。

「会いたかった……!」

ぬいぐるみを強く抱きしめる。

「僕もだよ」

優しい声。

懐かしい声。

でもどこか、少し遠い。

「今回はね、君の笑顔を見に来たんだ」

その言葉に、胸が締めつけられる。

(どうしてそんなこと言うの……)

でも同時に、嬉しかった。

彼が、ここにいる。

それだけで——

失っていたはずの時間が、少しだけ戻ってきたような気がした。

「夏の思い出、いっぱい作ろうね」

私は涙を拭いながら、小さく頷いた。