恋愛百景



第2話「あの夏の終わり」

夏休み前のある日の夕方。

「今日はちょっと遠回りして帰ろうか」

彼の提案に、私は小さく頷いた。

他愛もない会話。
何でもない帰り道。

それなのに、すごく楽しくて——

(こういう時間が、幸せなんだ)

そう思っていた。

その瞬間だった。

サイレンの音。
急なブレーキ音。
視界がぐらりと揺れる。

「——っ!」

何が起きたのか分からなかった。

気づいたときには、彼が倒れていた。

(え……?)

動かない。

声をかけても、返事がない。

「ねえ……起きてよ……」

手が震える。

何度呼んでも、反応はなかった。

病院で告げられた言葉は、あまりにも簡単だった。

「亡くなりました」

(嘘……)

現実を拒むように、頭の中が真っ白になる。

気づけば私は、あの日もらったクマのぬいぐるみを強く握りしめていた。

家に帰ると、そのままベッドに倒れ込む。

(なんで……)

涙が止まらない。

「どうして……」

何度つぶやいても、答えは返ってこなかった。