恋愛百景

第1話「あの夏のはじまり」

夏休みが近づく教室は、どこかそわそわした空気で満ちていた。
窓の外から差し込む日差しが、机の上の教科書を白く照らしている。

(もうすぐ夏休みか……)

特別な予定なんてないはずなのに、胸の奥が少しだけ浮き立つ。

「ねえ、誕生日のプレゼント、何が欲しい?」

隣から聞こえた彼の声に、私は思わず顔を赤くして俯いた。

「え、そ、それは……考えてなかった……」

うまく言葉が出ない。
視線も合わせられない。

でも彼は、そんな私をからかうこともなく、ただ優しく笑った。

「そっか。じゃあ、俺が選ぶ」

そう言って、そっと私の手を握る。

(近い……)

心臓がうるさいくらいに鳴っている。
逃げたいのに、離したくないと思ってしまう。

放課後、彼は小さな箱を差し出した。

「誕生日、少し早いけど……これ、君に」

恐る恐る開けると、中にはクマのぬいぐるみが入っていた。

柔らかそうな毛並み。
小さく笑っているような顔。

「かわいい……!」

思わず抱きしめる。

すると彼は、少しだけ照れたように笑った。

「これからも、ずっと一緒だよ」

その言葉が、胸の奥に静かに染み込んでいく。

(この時間が、ずっと続けばいいのに)

そう思った。