恋愛百景



第4話「あの日の別れ」

夜。

母がゆっくりと目を覚ました。

「陽菜……」

その声は弱く、それでも優しかった。

「陽菜は……早川くんのこと、好き?」

突然の問い。

戸惑いながらも、心は正直だった。

「うん……好き……かな」

言った瞬間、自分でも驚いた。

でも、それが本当の気持ちだった。

母は安心したように微笑んだ。

「よかった……」

そして、少し寂しそうに続ける。

「ごめんね……」

その一言で、涙が溢れた。

(違うよ)

(お母さんは何も悪くない)

そう言いたいのに、声が出ない。

「寂しい思い、させちゃって……」

その言葉を最後に、母の呼吸は静かに止まった。

(やめて)

(行かないで)

心の中で叫ぶ。

でも、もう届かない。

私は、何度も名前を呼び続けた。



第5話「あの日の選択」

母がいなくなった家は、静かすぎた。

テレビの音も、食事の音も、全部が空虚に感じる。

(なんで私だけ……)

何度も思った。

生きる意味も、分からなくなった。

それでも——

早川さんがいた。

何も言わず、ただ隣にいてくれる。

その存在が、どれだけ救いだったか。

少しずつ、日常を取り戻していく。

笑うことも、話すことも、少しずつ。

(この人がいるなら……)

そう思えるようになっていた。

怖かったはずなのに。

今は、違う。

「早川さん」

その名前を呼ぶたびに、安心する。

私は、前に進むことを選んだ。