「波川先生。院長先生がお呼びよ。」
電子カルテを凝視していた俺の耳元で、今井茉依看護師が囁いた。
今井看護師は、院内の男すべてが自分に惚れていると思っている節がある。
たしかに整った顔をしているし、バストもヒップも豊かである。
そういう女を巷ではグラマラスと呼ぶらしい。
今井看護師については良からぬ噂しか聞いたことがない。
ついこの間、眼科と耳鼻科の医師を両天秤に掛けて楽しんでいる、という話を聞いた。
男の入院患者同士が今井看護師を巡り、ジェンガで戦いを繰り広げているなんて話も耳に入ってくる。
俺はそんなどうでもいい事にはまったく興味がない。
しかしそういう人間関係について無関心な俺に、親父から院内の空気を知ることも大事な仕事だと耳にタコができるくらい説教され、渋々それを受け入れた。
積極的に動かずとも、色恋話は風間看護師長がバカでかい声で話しているのが聞こえるから、それを脳の片隅に留めておく。



