「波川先生。もしかして記憶を失っているんですか?」
「ああ。そのようだ。無論ここで心臓外科医として働いていたことや、自分のことはわかる。だが、直近の記憶がまったく思い出せない。」
「一時的な記憶障害だと思いますが・・・とりあえずすぐに脳の検査をしましょう。」
「よろしく頼む。」
そう佐島医師に言ったあと、波川広大は私に向かって優しく微笑んだ。
「君が婚約者だったということはなんとなく覚えている。だから都、安心してくれ。」
「・・・・・・。」
どうやら波川広大の記憶が改ざんされているようだ。
呆然と佇む私の腕を、美奈三が揺すった。
「波川先生と都ちゃんの絆は、記憶喪失という障害を乗り越えて強くなるんだねっ!」
「・・・・・・。」
私と波川広大は、まだ何も始まっていないというのに。



