「小山内さん。具合はどうですか?」
俺は先日オペしたばかりの担当患者である小山内さんに、問診した。
小山内さんは心筋梗塞で入院した、高齢男性だ。
「ああ。波川先生。先日はお世話になりまして。」
「顔色が良さそうですね。術後の数値は安定しているし、しばらくすれば退院できると思いますよ。何か不安なことはありますか?」
すると小山内さんは、眉尻を下げて言った。
「実は、生死の境を彷徨ったからか、不思議な夢をみましてな。」
「不思議な夢?どんな夢ですか?」
「妻の夢です。」
たしか小山内さんは、奥さんを1年前に亡くしていたはずだ。
「三途の川で小山内さんを迎えに来た、とか?」
「その逆です。三途の川向こうの妻に、早く戻れと怒られました。あんたにはまだまだやることがあるでしょう、と。たしかに私にはやるべき仕事があります。愛犬のぶんぶん丸より先に逝くわけにはいきませんしね。」
小山内さんはそう言って、高笑いした。



