気がついたら天才心臓外科医と婚約していました



私は広大さんの部屋に帰ると、手早く自分の荷物をキャリーケースにまとめた。

これは、広大さんが間違ってうがいをしてしまった歯磨き用コップ。

これは、広大さんがぞうきんと間違えて、こぼした牛乳を拭いたお気に入りのタオル。

ひとつひとつキャリーケースに納めながら、思った以上に自分の持ち物が、広大さんに侵蝕されていることに気付く。

あの時、どうして私は婚約者じゃないと、言わなかったのだろう。

いや、言わなかったのではない。

言いたくなかったのだ。

広大さんの婚約者としての自分が、これからどうなっていくのか、その未来を見てみたかったのだ。

そして私はまたその先の未来を見たいと願っている。

でもそんなことが許されるはずもない。

『広大さん。いままでありがとうございました。都』

それだけを書き残し合鍵を置いて、私は広大さんの部屋に別れを告げた。