無知な僕らと、正しすぎる彼女の命題。

拍手の音が、ひどく耳障りだった。

 体育館の壇上、全校生徒の前で「更生した元不良」が表彰されている。

 ボランティア活動に精を出し、生活態度を改めた。ただそれだけのこと。なのに、教師も生徒も、まるで彼が聖人にでもなったかのように、温かい眼差しを向けている。

「……気持ち悪い」

 私は、列の最後尾で小さく呟いた。

 彼が過去に誰を泣かせ、どれほどの時間を奪ってきたのか。その事実は、黒く染めた髪の下に隠せるほど薄っぺらいものではないはずだ。

 私の視線は、壇上の彼ではなく、その少し横、表彰式の準備を黙々と手伝っていた一人の男子生徒に向いていた。

 彼は三年間、一度もサボらず、一度も表舞台に立つことなく、誰に褒められずとも「当たり前」の誠実さを積み重ねてきた人だ。

 世間は、マイナスからゼロに戻っただけの人間を「成長」と呼び、最初からプラスを積み上げている人を「空気」と呼ぶ。その計算の合わなさが、私はどうしても、許せなかった。

 放課後、人影のまばらな廊下で、私はその「元不良」とすれ違った。

 彼は、周囲の称賛に少し浮かれたような、けれどどこか居心地が悪そうな顔をして歩いている。

「あ、……栞」

 彼が私を呼び止める。以前、彼がまだ「狂犬」とかいう頭の痛いあだ名を貰っていた頃に、私が彼の行為を淡々と指摘して以来、彼はなぜか私に怯え、あるいは執着しているようだった。

「今日の表彰式、見たか? 俺、ちゃんとやってるだろ」

 期待に満ちた、肯定を求める瞳。

 私は、彼が求めている「偉いね」という言葉を、一欠片も持っていなかった。代わりに、私が胸の内に秘めている、鋼のような信条だけを視線に込める。

「……あなたは、何か勘違いをしていませんか?」

 私は、彼の言葉を肯定も否定もしない。

 ただ、彼が見て見ぬふりをしている「積み重ねてきた人たちの時間」を、沈黙で突きつける。

 これが、私と彼の、正解のない日常の始まり。

 告白なんていう不条理な言葉が、私たちの間に響く、ずっと前のお話。