無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中

でもみなさんヒートアップしすぎじゃないかな。
広い個室だから隣や外のことまで気にしなくていいとは思うんだけど。



「ここでコロッケ食うなって、ほらこぼすー」

「病人のそばでラーメン食ってるやつに言われたくないわ!」

「匂いにつられて起きねーかなって思ってやってんですー、こっちは」

「なぁこれチューニング狂ってないか?」

「すまん。外野がうるさくて何も聞こえない」

「誰かティッシュちょーだい」

「投げるから取って~」

「あの、アイス好きですか? これ食べませんか?」

「それもう溶けてるから新しいの買いにいこ。ねぇ売店行くけどなんかいる人~?」



賑やかで何よりなんだけれど、璃央君はこんなところでほんとうにゆっくり休めているの?



「尾崎さん、なんだか私、場違いな所にいるような気がしてきました」


「確かに耳がなんていうか、初めてのことにびっくりしてます。碧葉君があの中で平然としているのはさすがとしか言いようがないですね」  



みんなが団子状態になっているのをいいことに、実はゆっくり眺めたかった璃央君の顔を覗きに行った。



「また改めて来るね、ゆっくり、おしゃべりができそうな時に。きっと……」



その手にこっそり触れようとしたその時。
彼の眉間が、微かに動いた。


「尾崎さん、今のって……」


不安になって彼女の腕にすがると、騒ぎ続けるみんなに向かって尾崎さんは凛とした声で「静かに」とだけ言い放った。


水を打ったように静かになった部屋に、しばらくすると細く小さく何かが聞こえた。


いろんな装置の機械音以外の音を拾おうと、全員で耳を澄ます。
次第に引き寄せられるように、私たちはベッドに集まった。


「璃央……?」


サト君が口元を覆って震えていた。
じゅん君が慌ててナースコールを連打して、シンタ君は部屋のドアから誰か来てと叫んだ。


廊下が騒がしくなると璃央君の唇の端が動いて、みんな息を飲んで彼のそばに耳を寄せた。



「……ぉま……ら、るせぇ」



璃央君は眉間を微かに歪ませて、消え入りそうな声で確かにそう言っていた。