無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中

「兄のことを母上はご存知だったんですか? 紺野のおばあ様が可愛がっていたことも?」


「もちろん知っています。いづみさんは柊佳(しゅうか)のおばあ様のお友達でうちでよく茶話会をされていたから敷地のどこかで偶然会っていてもおかしくないわ。もしかしたら不憫だと思ったのかもしれないわね」


母はいつもと同じペースでスープをひとさじ口にした。


「おばあ様が来客を楽しみにしていたことは覚えていますが……そうだ、そのいづみさんって猫を飼っていた方でしょうか?」


「猫? そういえば2匹連れていたわね。年老いていたけれどどちらも美しかった。今思い出したわ」


グレーと茶色の長い毛並みの猫のことをなんとなく思い出したけど、紺野の祖母の顔は思い出せなかった。


「私と兄はなぜ顔を合わせたことがなかったんですか?」


食事の手を止めると母もスプーンを置いてしまった。


「顔を合わせる理由がなかったからでしょうね」


まるで砂のように味気なく、不快な余韻の残る言葉だ。