無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中

「あっちでなんかやってんの?」


「ないない。なんもないから見るな!」


背伸びして俺をブロックするサトの前に出ると、階段の踊り場で女子二人が髪を鷲掴みにして何か喚いているのが見えた。


「なにやってんだあいつら……」


「どーみたって修羅場だろ」


サトがついたため息の先に美姫と沙也可がいた。
強気な美姫と大人しい沙也可。
仲よく俺をシェアしてたのに最後まで別れるとは言ってくれなかったふたりだ。


「とにかくおまえは顔見せないほうがいい。火に油注ぐことになるから」


「いや、全部俺が悪いんだ。責任取らないと」


サトに制止されるのを無視して野次馬の真ん中でもみくちゃになっているふたりの中に割って入った。


「ふたりとも落ち着けって!」


まずは美姫から沙也可を引き剥がした。


「璃央君来てくれたんだぁ。うえーん痛いよぉ、美姫が、美姫がぁ」


「はぁ? あんたから喧嘩売ってきたくせにぶりっこしてんじゃねーよ!」



会話はまったく噛み合わないし美姫は鬼みたいだし、普段あんだけ気にしている前髪が崩れるのもどうでもいいみたいだ。


「てか璃央に触んないで!」


「違うよ、璃央君が沙也のこと守ってくれてるだけだよ」


「んなわけないじゃん!」



今度は美姫が俺から沙也可を剥がそうと掴みかかってきた。


「待て、危ないから!」


「やだやだ、璃央君のこと引っ張らないで!」


「だからどさくさに紛れてくっつくなっていってんの!」



その時、勢い余って階段を踏み外したのか俺にしがみついていた沙也可の体がガクンと落ちた。


もちろん沙也可に掴みかかっていた美姫もバランスを崩す。
当人たちより先に野次馬から悲鳴があがって、慌ててふたりを抱えた。


「きゃ!」


「こっち掴め!」


条件反射で2人を抱えその下敷きになった俺は後ろへ倒れこむと、階段の角に思い切り頭を打ち付けながらてっぺんから下まで転がり落ちてしまった。


やばい。生臭い液体のなかに意識がどんどん沈んでいく。


ついに周囲のざわめきも俺を呼ぶ声も聞こえなくなってどくん、と太い音が耳の奥で響いた。
それはたぶん心臓の、最後の鼓動だったと思う。