無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中

彼女との出会い、それは存在すら知らなかった父親が会いたがっていると母親に聞かされたつい最近のこと。


とりあえずここに行けと親に指定されたホテルでのことだった。


座り心地が良すぎるロビーのソファで、頼んでもいないのに出てきたアイスティーを飲みながら、場違いなところに来た気まずさにいたたまれずガラスの向こう側の中庭を眺めてた。



そこには噴水広場みたいに子供のお尻が浸かるくらいの浅いプールがあって、おむつも取れてんだかわからない年齢のちびっこがそこに座り込んできゃっきゃいいながら水しぶきを浴びてて。


何かの機能がついているのか風のせいなのか、水面には柔らかい波が立っていた。



まだまだ残暑厳しい10月だけどお上品なママさんたちはそのそばで涼しげに談笑している。


ワンピースが翻るのをぼんやり眺めながら、うちの母親は日傘じゃなくて大根担いでたなって頬杖をついたとき、その光景が妙なことに気がついた。


最初は腹這いになった子供が目先にいる虫に夢中になってんのかなって思ったんだ。
でもよく見てみると、まさかの仰向けに倒れてた。


まさかあの程度の波で転倒?
でもその時静かに溺れる、って言葉を思い出して喉がぎゅっとすぼまった。


すぐにガラスを叩いて向こうにいる母親たちに叫んだ。俺の切羽詰まった声にロビー中が騒然としたけど、こっちに背中を向けている母親たちは気づかない。

やばい、このままじゃ時間が……。