人気者の璃央君はクラスの人たちに呼ばれて戻ってしまい、碧葉君はこの後また用事があるとお迎えの車の元へ向かうことになった。
「じゃあ行くけどなるべく早めに帰ってね」
「はい、ありがとうございます」
会釈してお別れしようとしたけれど、やっぱり思い直してその手を掴んだ。
驚いた顔の碧葉君。
ずっと言わなくちゃと思っていたことを、今こそ言わないと。
「婚約解消の件なんですが、さっきも言った通り、私は私の好きになった人と結婚するって決めていて」
そこで息継ぎをしたら、碧葉君は私の手を握り返してくれた。
だけど、もうこんなのは終わり。
彼のことを好きな女の子はたくさんいるんだから、私はいつまでも彼の隣にいるべきじゃない。
「私じゃ碧葉君の期待には応えられないと思うんです、ごめんなさい」
彼の手には何もかもを許してくれるようなぬくもりがあった。
「いいんだ。好きな人に好きになってもらうことは難しいって、最初からわかってたから」
悲しい顔、させたくないのにな。
ほんとうは、ありがとうって伝えたいことの方が多いのに。
「ひとつ我儘を聞いてもらえるなら、これからの俺を見てもらえないかな? せめて紺野を諦める方法をみつけるまでは。それまでは、勝手に好きでいさせてよ」
「嬉しいです、私にはもったいないお言葉です」
冷たい風が吹いて、木々がざわめく。
「とりあえず、璃央に油断するなって伝えといて。俺はいつでも紺野を奪いに行くつもりだから、紺野もいつ奪われてもいい覚悟だけはしててね」
いつものように碧葉君は明るく笑ってくれた。
「碧葉君ありがとう。私、足手まといにならないよう生徒会のお仕事頑張ります」
「うん、生徒会室で待ってる」
そっとその手を離した。
碧葉君が行ってしまっても、しばらく一人、その場に立ち尽くしていた。
碧葉君はいつだって優しい。
これからもきっと優しい。
生徒会長という立場を負う人が着けなくちゃいけない冷たい仮面の下には、いつだって柔和な笑顔があったんだ。
それに気づけたってことは、私も少しは大人になれたのかな。
切なくなってしまい美姫ちゃんと沙也可ちゃんにどうしても会いたくなって連絡したら、尾崎さんも一緒にいたみたいですぐに合流することになった。
美姫ちゃんが買ってきてくれた焼きたてのワッフルを青空の下、3人で食べていたら、そんな気持ちも少し落ち着いてきた。
大好きなお友達に胸の内を聞いてもらうなんて、これまでの生活にはなかった景色。
碧葉君にお断りをしたことも、璃央君に思い出してもらえたことも、ちゃんと自分から報告することができた。
「あいつ思い出すの遅くない?」
「だいぶマイペースな方ですもんね」
「ねー、王子失格。絶対碧葉君の方が幸せにしてくれる!」
3人とも次々に璃央君への文句が出てきたけど、結局は一緒になって喜んだり嘆いたりしてくれた。
「でもこれでみんな自由なの。誰を選ばなくてもよくなったんだよ。話したこともない隣のクラスの子を好きになったっていいの」
ホットココアを飲んでそう言ったら、みんなにじっとり睨まれた。
「とか言って、もう自分が誰を好きかなんてわかってるよね?」
「その気持ち、お相手に伝えるべきですよ」
「そうだよ、素直になりなよ。素直じゃない女の子は可愛くないよ?」
ふふふって笑われて、心の中を覗き込まれてるみたいな気になった。
そうか、これまでの自分って無理ばっかりして全然可愛くなかったんだ。



