無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中

もう心臓は破れそうだし足もちぎれそう。
でもどうしてもここで止まりたくない。


露天が並ぶピロティ下までたどり着くと、早足で歩くあの子をやっとみつけた。
正門に向かってる。
てことは、もう帰ろうとしてるってこと?


「待って、行かないで!」


長い黒髪が靡いてワンピースの裾が翻る。
絶対声は届いてるはず。
その証拠に彼女の後ろ姿がびくっと跳ねた。
でも振り向いてくれないどころか、なんなら走って逃げ出した。


「なんで逃げんの? 俺のことが怖いの?」
 

なんでか、背中にそう叫んでた。
この子に嫌われるわけがないって、変な自信すらあった。


とにかく走って走って、息を切らしてやっとその子に追いついた。
初めて会った子の前で、かっこ悪く無防備に汗をかいていることが信じられなかった。


「急にごめん。自分でもわけわかんなくて。だけど、どうしても話さなきゃって思って」


振り返った彼女は少し怯えた上目遣いでこっちを見た。
恥じらったその仕草に心を射貫かれて、とたんに語彙力がゼロになる。
どうしよう、何て言えばいい?


「さっき俺の名前いっぱい呼んでくれたよね? 何度も呼んでくれたでしょ? いやこれナンパじゃなくて!」


顔が熱い。はぁはぁと息が上がる。
胸が痛いし苦しい。
本当にそう思ったんだってことを伝えたくて必死で、なおさら息ができなくなる。


「すごく会いたい人がいたような、ずっとそんな気がしてたんだけど、もしかしたらそれが君なのかなって思って」


どうしても彼女をここに繋ぎ止めたかった。


「試しに名前呼んでみてよ、何か思い出すかも。あ、でもこんなの気持ち悪いよね。決して怪しい者じゃないです……」


ろくに言葉も選ばず言い捨てて汗を拭ったら、ちょっとだけ笑ってくれた。